年をとって改めて自分の歯を鏡で見ると、若い頃よりも、歯が“長くなった”という印象を抱く人も多いのではないだろうか。加齢によって歯肉が下がってしまったのである。
虫歯治療の権威である東京医科歯科大学の前副学長・田上順次氏(現・徳真会先端歯科センター長)によると、これまで歯肉に隠れていた部分は虫歯のリスクが高い。これはシニア世代に特有の「根面う蝕」と呼ばれる虫歯だ。
その予防には高濃度のフッ素入りハミガキが有効だとされているが、一部に「フッ素は体に毒」だと信じ込む人もいるようだ。これについて田上氏に聞いた。
「根面の部分は象牙質になっているので、虫歯になりやすいのです。そこにフッ素を塗布したり、普段から高濃度フッ素入りハミガキペーストでケアすることが必要です。
フッ素の安全性は世界中で確認されていますし、市販の高濃度ペーストをたとえ飲み込んでも、中毒や副作用になる恐れはありません」
副学長時代も一般外来を担当してきた田上氏。現在も民間のクリニックで診療を続けているが、コロナ禍で気になることがあるという。
「最近診た患者の中には、虫歯が一気に進行している人がいました。テレワークの推奨で在宅勤務になり、普段よりも頻繁におやつを口にしている影響かもしれません。
糖分や飲み物で口腔内が酸性になると、『脱灰』と言って歯の表面が溶け出します。これを食い止めるのが唾液の成分で、『再石灰化』と言います。ただし、頻繁におやつ等を食べると、『再石灰化』の時間がなくなって、虫歯が進行してしまうのです」
“ダラダラ食い”の習慣を見直し、時間を決めて食べるようにする、おやつや酸性飲料を飲んだ後は必ず歯を磨くか水で口をすすぐなどの対策をとったほうがいい。
レポート/岩澤倫彦(ジャーナリスト)
※週刊ポスト2021年10月8日号