自民党総裁選が終わり、いよいよ新総理大臣が誕生するが、映画の世界でもこれまで総理大臣は注目されてきた。公開中の『総理の夫』など、名作家によってさまざまなキャラクターの総理大臣が描かれてきた。名作家たちが総理大臣に注目するのはなぜか? コラムニストのペリー荻野さんが解説する。
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公開中の映画『総理の夫』は、日本初の女性総理と“ファーストジェントルマン”になった夫婦の愛と奮闘の物語だ。
大財閥の御曹司で鳥オタク、どこかぼんやりしている年下夫の相馬日和(田中圭)は、電波の届かない孤島で野鳥の調査をしている間に、愛する妻・凛子(中谷美紀)が総理大臣になっていた。美しく政治家としてのカリスマ性を持つ凛子は、国民を熱狂させ、“凛子ジェンヌ”という追っかけまで出現。凛子人気が日和にも及んで、女性集団“ひよラー”が行く先々で、キラキラうちわをフリフリして大変な騒ぎ。そんな最中に凛子が妊娠していることがわかる。
妻が総理になったことだけでもびっくりなのに、マスコミに追われ、総理公邸に引っ越し、テロ対策のため監視され、と驚くたびに「えっ」と困惑する無精ひげの田中圭は「可愛い」と評判だ。
考えてみると「総理大臣ファミリー」を主役にした作品には、名作が多い。古くは、1997年のドラマ『総理と呼ばないで』。ここでは意地っ張りで短気、しかも能力不足で支持率が急降下する総理大臣(田村正和)が主人公。官邸スタッフ、わがままな夫人(鈴木保奈美)、前妻との間に生まれた令嬢(佐藤藍子)とのすったもんだが描かれた。
2015年のドラマ『民王』は、政治闘争を勝ち抜いた総理大臣武藤泰山(遠藤憲一)と気は優しいが勉学も体力もさっはりの息子翔(菅田将暉)の体が入れ替わって大騒動。わけがわからないまま、国家で演説することになった総理(翔)だが、原稿の「未曾有」を「みぞうゆう」、「直面」を「じかめん」と読む姿が放送されて、大ピンチに。三十年来、泰山を支える内閣官房長官(金田明夫)は「総理のコンタクトがずれて…」と苦しい言い訳をするが、政治評論家からは「武藤総理じゃなく無能総理」と笑われる。
そして2019年、映画『記憶にございません!』では、中井貴一が演じる総理大臣・黒田啓介が、国民の声に耳を貸さず、国会で追い詰められると「だから、うるせいなあ、もう! 記憶にねえんだ。記憶にございませーん」と最悪な答弁をしたりする。しかし、怒った国民が投げた石が当たって卒倒。記憶を失くした黒田は、急に腰が低くなり、自分の支持率が「前代未聞の2.3%」と知って「なんでそんなに人気がないんでしょうか」とおどおどするようになる。
興味深いのは、これらの作品が、すべて名作家によるものということだ。