9月29日に行なわれた自民党総裁選で新総裁に選出された岸田文雄氏(64)。名門・開成高校から早稲田大学に進み、日本長期信用銀行勤務を経て政界に転身。父・岸田文武氏の秘書を経て衆院議員となった。
総裁選に敗れた河野太郎氏が、河野一郎・元副総理を祖父、河野洋平・元衆院議長を父に持つ3世議員であることは有名だが、岸田氏も同じ3世ながらそうした印象は薄い。
祖父・岸田正記氏は百貨店事業で財をなし、地元・広島県から衆院議員に当選。父・文武氏は旧通産省でキャリアを積んだ後、正記氏の後を継いで衆院議員になった。父・文武氏と当選同期で同じ広島県選出の亀井静香・元建設相が、その人となりを語る。
「岸田文武さんは、ともかく『いい人』。紳士でしたよ。それに尽きる。亀井静香とは正反対の政治家よ。通産省の出身だけど、あまり官僚っぽくない(亀井氏は警察庁出身)。民間とも付き合いが多いので、さばけているんだな。とにかく紳士だから、議員としても国対に強いタイプというよりは政策畑の政治家だったと思う。
それを岸田文雄も引き継いだんだろう。優しい。だから彼はこれまでは勝負に弱い部分があった。こないだの広島の再選挙(*)も、その悪い部分が出たんだな」
【*4月の参院広島選挙区再選挙で、岸田文雄氏は広島県連会長として陣頭指揮を執ったが、痛恨の敗戦となった】
元日経新聞政治部長で同社の専務も務め、岸田氏の父・文武氏と交流があった山岸一平氏も、文武氏について同様の印象を抱いている。
「岸田文武さんは、一言で言えば『真面目』。真面目さが全面に出るようなタイプの人でした。通産官僚出身だが、政治家としては文部省の政務次官を務め、文教委員会にも所属しており、教育には熱心だったという記憶があります。文雄さんは名門・麹町中学から開成高校に進んだ。この辺は岸田文武さんの教育方針があったからではないかと思います。
また今、文雄さんは宏池会の会長ですが、もともとは父・文武さんが宏池会だったから、息子も宏池会に入ったということです。宏池会の領袖だった池田勇人さんは大蔵官僚出身ながら通産大臣も経験しており、その関係で文武さんとは面識があったらしい。同じ広島出身ということもあり、そうした縁で宏池会に入ったんだと思います。
ただ、文武さんは、宏池会で特にこれという存在感を示したという記憶はありません。真面目で、地味な方でした。その真面目さが迫力不足とつながり、それが長所であり、欠点でもあった。それはそのまま息子の文雄さんに引き継がれているように思います」
他の世襲議員に比べると父親の政治的影響力が低いように見えるが、岸田氏には父親から引き継いだ人脈の強みがあるという。山岸氏が続ける。