民放では番組の改編期にあたるため現在、ドラマは放送されていない。そんな“空白期間”にNHKドラマ3作品が支持を集めている。その理由とは? コラムニストでテレビ解説者の木村隆志さんが、民放が抱える課題とともに解説する。
* * *
9月中旬から下旬にかけて夏ドラマが次々に終了し、現在は民放各局の連ドラが放送されていません。
そんな連ドラの空白期間と言える改編期の今、注目を集めているのがNHKのドラマ。9月に放送がスタートした『古見さんは、コミュ症です。』『オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ』『正義の天秤』の3作がネット上の話題を集め、しかもそろって評判がいいのです。
季節ごとに民放各局の連ドラが入れ替わる日本では、視聴者の多くがそのスケジュール感が体に染みついているもの。それ以外の期間でスタートする作品は、どうしても埋もれてしまいがちですが、なぜこれらの3作は支持されているのでしょうか。
「どんなところがどう支持されているのか」を突き詰めていくと、NHKの強みと民放各局の課題が浮かび上がってきます。
映像美とスケール感で民放を圧倒
最も反響が大きいのは、『オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ』。“脚本・演出・編集 オダギリジョー”という異例の制作体制、そのオダギリジョーさんが着ぐるみをかぶって警察犬を演じる演出、大物俳優から若手女優、文化人、妻の香椎由宇さんまでそろえた豪華キャスト……いずれも話題性が高く、「笑えるサスペンス作」という異色さも含め、好意的な声が飛び交っています。
『古見さんは、コミュ症です。』は民放各局がほとんど放送しなくなった高校生たちが主役の学園ドラマ。しかも35歳の増田貴久さん、35歳の城田優さん、32歳の溝端淳平さん、31歳の大西礼芳さんら30代の俳優を多数そろえてインパクトを生み出しています。また、人と話すのが苦手で筆談しかしないヒロインを筆頭に、ヤマンバメイクで寂しさをごまかすギャル、気の弱さを隠すために強面を装う少年、潔癖症で他人にふれられない生徒会長候補など、人との距離感に悩む若者たちが一歩踏み出す姿を描く温かいストーリーも好評です。
『正義の天秤』は元医師の天才弁護士が大手法律事務所の戦力外チームを率いて難事件に挑む法廷ミステリー。弁護士が主人公の作品は民放各局でもよく見られるものの、当作はよりハードボイルドな世界観と、スタイリッシュな映像と音楽が際立っています。亀梨和也さん演じる主人公が、事件関係者の魂を救うために法廷で熱弁するシーンも好評でした。
この3作は異なるジャンルですが、共通しているのは映像の美しさとスケール感。いずれも演出へのこだわりは特筆すべきで、カメラワーク、セット、衣裳、ロケ地、劇伴なども含めて、たっぷり時間をかけて映像の美しさを追求している様子が伝わってきます。
また、脱力感あふれるサスペンス、高校生が主役の学園ドラマ、ハードボイルドな法廷ミステリーという作品ジャンルも、視聴率獲得が優先される民放各局が避けがちなものばかり。そのレアなジャンルに挑む姿勢は、「犬の着ぐるみ」「ヒロインがしゃべらない」などの思い切った演出にもつながっています。