音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接してきた。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、1年間の充電で磨きをかけた二ツ目・立川こはるキレのある語り口と落語の地力についてお届けする。
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この連載が始まったのは2017年の夏。当時、落語界には“二ツ目ブーム”と呼ばれる現象が起きていた。二ツ目を目当てに足を運ぶ新たなファン層の流入によって、落語界は少々浮かれていたと言ってもいい。
だが昨年来のコロナ禍によって状況は激変。落語会の運営が難しくなったことで演者が淘汰され、“ごく一部の売れっ子とそれ以外”という二極分化が起きた。二ツ目ブームの中心にいた柳亭小痴楽、瀧川鯉八、桂宮治、三遊亭粋歌(現・弁財亭和泉)らが続々と真打に昇進した今、“客を呼べる二ツ目”はごく僅かだ。
立川こはるも二ツ目ブームの中心にいて、真打昇進を目指していた。談志家元亡き後の立川流においては「弟子の昇進は師匠が決める」ということになっている。こはるが昇進するためには師匠である立川談春の基準をクリアしなければいけない。そのため、こはるは2020年を“自己研鑽の年”と位置付け、表立っての活動を断った。もっとも2020年にはコロナ禍が落語界を直撃したため“こはる不在”も目立たなかったが。
今年1月に高座復帰したこはるは、5月から新宿文化センター小ホールでの独演会を再開、1年間の充電の成果を見せている。8月には27日・28日と2日連続で行ない、27日は『目黒のさんま』『棒鱈』『藪入り』を、28日は『十徳』『しの字嫌い』『化物使い』を演じた。キレのある語り口を活かした威勢のいい高座の魅力は健在だ。
引っ越しの当日から演じ始める『化物使い』は、主人に「お暇をいただきたい」と奉公人が願い出る冒頭のやり取りが濃密で聴き応えがあるが、これは大師匠である談志の型を踏襲したもの。後半の“化物使いの荒さ”も談志がベースとなっている。『化物使い』と言えば古今亭志ん朝のイメージが強く、今では大抵の演者がその系統で演じているだけに、談志演出で聴くと実に新鮮だ。談志は自らの演出を全集として書き残しているのだから、立川流の若手はそれを活用すべきだろう。