歯周病や虫歯が進行して歯を失った時、チタン製のフィクスチャー(ボルト状人工歯根)を顎の骨に埋め込むのがインプラント治療だ。強く噛むことが可能で、一般の人には天然歯と見分けがつかない。
以前はインプラント手術で死亡事故が発生したり、顎の神経を損傷するなどの重大な事故があった。現在では、手術前にCT検査を行なうなどの対策が取られ、“インプラント治療は安心安全になった”と宣伝するクリニックも多い。
しかし、インプラント治療の第一人者・小宮山彌太郎氏(ブローネマルク・オッセオインテグレイションセンター院長)は、重大なリスクが今も存在すると話す。
「年配の患者さんで、骨粗鬆症の治療薬・ビスフォスフォネート(通称・BP製剤)を使っている人が多くいます。この薬の服用中にインプラント手術を行なうと、稀に顎骨壊死の合併症が起きることがあるのです。
一定の期間、BP製剤を休薬することで合併症を回避できますが、患者自身がBP製剤の服用を把握していない場合があるのです」
以前のBP製剤は錠剤だったが、最近は注射で投与されるようになった。そうなると、お薬手帳にも記載されないので、患者自身が把握できていないのだ。
顎骨壊死の治療経験がある歯科口腔外科医によると、顎の骨が崩れるように壊死した患者は強烈な腐敗臭と激しい痛みに苦しむという。
こうした悲劇を回避するために、小宮山氏はインプラント手術などの外科処置に先立ち、必ず医科の主治医との連携を密にして、その指示に従うべきと話す。
「顎骨壊死はBP製剤だけでなく、他の薬剤によっても起こり得ます。
インプラント治療に限らず、歯科治療で観血的な(出血を伴う)処置が必要な時は、患者の主治医と連絡をとって、どのような薬を服用しているかなどの確認が必要です。私たちはこれを『対診』と呼んでいますが、必要性を理解していない歯科医もいますので、患者さんから注意してほしいと思います」
レポート/岩澤倫彦(ジャーナリスト)
※週刊ポスト2021年10月8日号