コロナ禍ですっかり日常風景となったテレワーク。在宅勤務が浸透したことで郊外や地方へ居を移したり、旅行と仕事を兼ねたワーケーションを実践したりする人もいる。そこで沸き起こったのが“オフィス不要論”だが、事務用品最大手のコクヨは、逆境をものともせずユニークなアプローチで新しいビジネスを展開している。コクヨ創業家の5代目社長、黒田英邦氏(45)にこれからの働き方について聞いた。
――ここ(東京・港区港南のコクヨの自社ビル)をリノベーションして今年2月、新たな働き方の“実験場”と位置づける「THE CAMPUS」がオープンし、話題になりました。
黒田:コンセプトは“みんなのワーク&ライフ開放区”です。一番の特徴は街に開かれた場所であること。デッキを設けた広い屋外スペースは外部の方も自由に利用でき、ゆったりくつろいだり、デスクワークができるエリアもあります。
また、オフィスフロアの一部は“ライブオフィス”として、当社の社員が新しい働き方を実験、実践し、お客様向けに公開もしています。オープンラボも開設するなど街に開放しているオフィスなので、外部の人と仕事スペースを共有していくことで、どのような化学反応が起こるのかを試しているわけですが、そこをコロナ後の新しい働き方のご提案に繋げていけたらと思っています。
ホテルのリノベで培った「空間デザイン」
――コクヨの売り上げの4割強はオフィス家具関連が占めていますが、近年は「モノ」だけではなく、空間デザインの創造といった「コト」を掛け合わせたビジネスに力を入れていますね。
黒田:そもそも、我々のオフィス家具事業は単に家具をお買い上げいただくというより、その家具を使った空間の内装設計や施工もさせていただいています。その一気通貫の結果、どういう働き方に変わるのかまで、具体的にご提案するビジネスなのです。
ですからTHE CAMPUSは建築工事こそ外部にお願いしましたが、設計、施工とも我々が手がけています。いわば、オフィスのリノベーションを請け負う際のショーケースがここともいえますね。
――空間デザインのビジネスはいつ頃から加速したのでしょう。
黒田:ここ10年ぐらいで社内デザイナーも増えました。転機になったのは、2000年代に入ってから都市デザインシステムさん(現UDS株式会社)に数年間、資本参加(現在は小田急電鉄傘下)させていただいたことです。
空間デザインの難易度で言いますと、比較的デザインしやすいのがオフィスで、もう少し難しいのが住宅やレストラン、一番難しいのがホテル。なので、デザイナーにとってホテル案件を手がけることは、1つの憧れでもあるのです。
そうしたホテルのリノベーションノウハウもTHE CAMPUSで活かされているわけですが、ノウハウの蓄積で最も効果があったのは、「ホテルカンラ京都」(2010年開業)というデザインホテルの案件でした。教育施設の入っていたビルをリノベーションし、そのままホテルへ転用したものですが、都市デザインシステムさんが受託し、我々は設計、施工などを手がけました。