2002年に第1シリーズが放送開始され、第3シリーズ(2008年)まで制作された人気学園ドラマ『ごくせん』(日本テレビ系)。仲間由紀恵(41才)が演じるヤンクミこと、山口久美子先生の言葉に胸を打たれた人も多いだろう。名セリフはどのように生まれたのか。脚本を手がけた江頭美智留さんに聞いた。
学園ドラマと、それ以外のドラマでは、セリフまわしに違いがあるのだろうか──。江頭さんは、セリフに込めた思いを、次のように語る。
「通常のドラマの脚本は、ストレートな気持ちをセリフで伝えることはあまりなく、間や表情で表すことが多いんです。ですが『ごくせん』では、セリフで何でも伝えてしまおう思っていました。
というのも学園ドラマは老若男女が見るものであり、そこには時代が変わっても普遍性がある。私は子供がいないので、『子供がいたら、こんなことを伝えたい』と思うことをすべてヤンクミに言ってもらいました」(江頭さん・以下同)
江頭さんが特に力を入れたのは、親子関係の場面だ。
「『ごくせん』第1シリーズの1話後半で、ヤンキーの生徒がお金を投げるシーンがあるんです。そこでヤンクミは、『親が稼いだお金を投げるんじゃねえよ!』と喝を入れます。ここでは、自分ひとりで大きくなっているような気でいるけれど、親が必死になって働いて、育ててくれたからここまで大きくなったんだということを伝えたかった。
それは、『ごくせん』第2シリーズの卒業式シーンでも描いています。『卒業式はお前らのものだけでなく、お前らを育てた親御さんのものでもある』というのが、ヤンクミのセリフです。
それに、六本木のナンバーワンキャバクラ嬢が高校教師となって不良たちと対峙するドラマ『美咲ナンバーワン!!』(2011年・日本テレビ系)の脚本を書いたときも、『親への感謝の気持ちを忘れるな』ということをテーマにしました」
こうしたテーマを選んだ理由の1つに、江頭さんの子供時代の経験がある。
「うちは母子家庭で、母は私と弟を育てるために必死に働いていました。でも、弟は母がいない寂しさからグレてしまい、たばこを吸ったり、悪さを働くこともあったんです。親は子供を守るために必死になっているのに、子供は寂しさからグレてしまう。そのすれ違いをドラマで表現したかった。
どんな状況になっても親は子供の味方です。それがドラマを描く上で根底にあったこと。ヤンクミは、生徒に裏切られようが嘘をつかれようが、『お前らのことを信じる』と口にします。それは、きっと彼らは立ち直ると信じているから。人は間違えたり、失敗することもあるけれど、好きで道をそれるわけではない。それをきちんと理解して信じてくれる大人がいれば、人生、立ち直ることができると思うんです。ドラマで描かれるヤンキーたちが実際にいたら、怖くて、嫌です(笑い)。でも、ドラマは基本的に夢物語。現実は厳しくても、あんな先生がいてくれたらいいだろうなと、見てくれる人が感じてくれたらいい。それがストレートに伝わったからこそ、特に『ごくせん』はパート3まで制作されたのかな」
取材・文/廉屋友美乃
※女性セブン2021年10月14日号