9月場所千秋楽翌日、新横綱・照ノ富士の昇進場所優勝をかき消すように、横綱・白鵬の「電撃引退」が報じられた。史上最多となる45回の幕内最高優勝を誇る白鵬は、「一代年寄」を与えられるに申し分ない実績を残している。しかし、今年4月に日本相撲協会が設置した「大相撲の継承発展を考える有識者会議」が提出した「提言書」には、〈一代年寄の名乗りを認める根拠を見出せない〉と明記されており、流れが変わる。白鵬には一代年寄は与えられず、間垣親方を襲名することとなった。
過去20回以上優勝した横綱には与えられてきた「一代年寄」。しかし、唐突に出てきた“提言書”によって、白鵬の一代年寄は取り上げられた形だ。この事実に異議を投げかけるのは、高野山真言宗別格本山・南蔵院(福岡県糟屋郡篠栗町)の林覚乗住職だ。
林住職は、白鵬が所属する宮城野部屋の九州後援会名誉会長でもあり、大相撲九州場所の維持員で組織される「九州溜会会長」を務めた大物支援者だ。
「あれだけの功績を残した横綱ですよ。過去、20回以上優勝した横綱には『一代年寄』が与えられているのに、唐突に有識者会議から“一代年寄という制度を認める根拠がない”などという提言書が出てくるのはどうかと思いますね。あの提言書を知り合いの弁護士に見せたら、人種差別だと言っていました。(白鵬が)もし日本出身の横綱なら、(一代年寄を)与えたと思いますよ。協会はあのような組織なので、与えないと決めたら与えないと思いますが……」(林住職)
さらに林住職は、「7月の名古屋場所前に私の娘が、白鵬が一代年寄になれないことについて抗議する手紙を八角理事長宛に送ったのです」と明かした。すると、協会側から林住職に対して、九州溜会会長を辞めろと要求する返事が届き、結局林住職は体調不良を理由に、自ら会長を退いたという。
「協会は怯えている」
失意のなかにある林住職だが、電撃的な発表となった白鵬の引退は、早くから予感していたという。7月の名古屋場所で白鵬が復活の全勝優勝を果たした後、お祝いの電話を入れた際のことだ。
「引退という言葉ではありませんでしたが、電話口で“ヒザの状態が悪くて、よく土俵に上がれた”と言っていました。さらには“名古屋が最後になるかもしれません”とも話していた。すぐに発表はしないだろうと思いましたが、もう九州(場所)へは現役で来ないだろうと感じていました。オリンピックとパラリンピックをやっていたので、イベント中に発表すると迷惑をかけるという思いもあったようです。9月の秋場所前の発表という選択肢もあったが、部屋で新型コロナ感染者が出て、所属力士全員が休場となったことで時期を逸し、このタイミングになったんじゃないか」(林住職)
引退が近いとわかっていたからこそ、協会は一代年寄を求める意見に反発したのだろうか。林住職はこんな言い方をする。
「反発というより怯えているように感じました。たった1枚の手紙にオタオタしている。私に直接連絡してくればいいのに、それを文書(※娘が送った一代年寄についての意見の手紙に対し協会から内容を問いただす文書)まで送ってきて……。そこまで神経質になることがあるのかと。(娘の手紙の内容は)白鵬が言わせたと思っているのかもしれませんが、白鵬はそんなことはしません」