【著者インタビュー】降田天/『朝と夕の犯罪』/KADOKAWA/1870円
「元々お話は作りたいけど特に書きたくはなかった」プロット担当の萩野瑛氏と、「物語を書きたいのに作れなかった」鮎川颯氏による、「2人で1人のミステリー作家ユニット」、降田天。
注目の最新作『朝と夕の犯罪』は、2018年の日本推理作家協会賞受賞作を収めた短編集『偽りの春』に続く神倉駅前交番シリーズ初の長編。が、わけあって県下の小京都で交番勤務に励む〈狩野雷太〉が、鬼気迫る名推理を発揮するのは後半、第二部に入ってから。その前段となる第一部には〈アサヒとユウヒ〉という数奇な縁で結ばれた兄弟の過去や再会、彼らが企てた〈狂言誘拐〉の顛末までが綴られ、手に汗握る展開に心躍るが、問題はその後だ。
いったん幕が下りたかに見えたその犯罪には続きがあり、人間の宿業や社会の歪みを背負わされた小さき者たちの悲劇は、終わってなどいなかったのである。
22年前に大学のサークルで出会い、2009年に鮎川はぎの名義でデビューした前後に同居生活を開始。各登場人物の性格まで書きこんだ萩野氏のプロットを「共同の食事スペース」で再度練り、鮎川氏がそれを小説化した後も2人で推敲を重ねる創作形態を、続けてきた。
萩野「本作でいえばまず、狩野雷太物で長編をという、このシリーズの前担当編集者のリクエストと、前に一度書いてボツにした、兄弟による犯罪の物語の設定を『やっぱり使いたいね』と鮎川と話したこと。そして『次は誘拐でいきましょう』って、あれもその編集者のリクエストです」
鮎川「2人で1人と言えば『99%の誘拐』の岡嶋二人さんですし、『私たちも誘拐、いつかやらなきゃ』って」
萩野「でも難しいんですよ、誘拐って。考えるのも書くのも。ただでさえ当時は警察捜査にも詳しくなく、あえて狩野をコロンボとか古畑みたいに王道を外れ、人をやたらイライラさせる、変わった警官キャラに設定したくらいだったから。その点、狂言なら多少はハードルも下がりますし、あくまで主眼は彼らがなぜその犯罪を企てたかという動機や背景にあったので」
〈黄色は「進め」だ〉〈それが“お父さん”から初めて教わったことだった〉〈赤は止まれ。青は進め。黄色は全速力で突っ込め!〉