小説につけられた帯の「TikTokで超話題」という文言を見て、頭の中にハテナが浮かんだ。その小説とは、筒井康隆の名作SF『残像に口紅を』(中公文庫)だ。1989年に発表された小説が、なぜ2021年に「TikTokで超話題」になっているのか? そもそも小説がTikTokで話題になるとは、どういうことか?
動画クリエイターの「けんご@小説紹介」氏は、「小説のTikTok売れ」という全く新しい動きを生み出した張本人だ。TikTokという新たなプラットフォームを通して、読書に興味を持つ若者を増やしている。彼が紹介した小説が重版になることも多く、出版関係者から感謝の声が届いているという。
「出版社の方々に『今まで自分たちでは届けられなかった層に小説が届いている』と感謝していただけて、大好きな小説の世界に貢献できたことをうれしく感じています。実際、10代の方々から『けんごさんの動画をきっかけに初めて小説を読みました』や『小説にハマりました』というメッセージが届いています」(けんご氏)
動画で小説を紹介する場として、YouTubeではなくTikTokを選んだのは、そちらのほうが読書にもともと興味がない人々にアプローチできると考えたからだ。
「YouTubeのユーザーは、サムネやタイトルによって視聴する動画を選びます。なので、すでにある程度小説への興味がある人にしか届かないのではないかと考えました。一方でTikTokは、おすすめ機能によってランダムに動画が流れる仕組みなので、普段本を読まない方々にも動画が届きます。しっかりデータを取ったわけではありませんが、中高生がメインとなって僕の動画を見てくれている実感はあります」(けんご氏)
紹介する作品に関しては、感動ものや恋愛もののリクエストが動画視聴者から寄せられることが多い。しかし、自身が本来好きなジャンルであるミステリやホラーといったジャンルを紹介してみたとき、意外な好反応が得られたという。