新型コロナウイルスのワクチンは、日本に在住する外国人も希望すれば日本人と同じように接種できる。しかし、自治体が配布する接種券や予診票は多くが日本語で書かれていて、しかも難しい漢字も多いことが壁となっているらしく、なかなかすすんでいない。288万7116人いる在留外国人(2020年末、出入国在留管理庁調べ)は、コロナ禍の日本をどうやって生き延びているのか。ライターの森鷹久氏が、緊急事態宣言下にあえて通常営業していたナイトクラブに彼らが集っていた理由を探った。
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「ずっと営業していたよ。もう見回りも来ないし、我々だって大変なことを警察も知っている。もちろん消毒はしっかりやっているよ」
秋の気配が感じられるようになった、ある日の深夜、東京・六本木の雑居ビルにあるナイトクラブに、マスク姿の男女が何人も吸い込まれていく。よくみると、日本人より浅黒い男性の姿が目立ち、そのほとんどが外国人であることが窺えるが、日本人客もいるようだ。来日10年以上という店のオーナー・サムエルさん(仮名・50代)は、コロナ禍以降は営業を自粛していたが、今年5月からは通常営業に踏み切った。もちろん酒の提供も通常通りだ。
「私はブラジル(出身)ですから、もともとはブラジルの人(客)が多かったですね。今は色々(な国の人が来る)。日本人の方が少ないけど、外国人はSNSでコミュニティがあるので、そこを通じて人が来る。たくさんきますよ」(サムエルさん)
サムエルさんのクラブで行われていたのは、多国籍のエスニックミュージックをメインにしたダンスパーティーで、この日もブラジル人やネパール人、それにフランス人やドイツ人もいるようだった。五輪の関係者も来ていたという。
「友達だからこっそり呼ぶ。みんな(コロナの)検査もしているし、体温計も準備している。万全の体制だから、みんな安心して遊んでいる」(サムエルさん)
日本は私に帰って欲しいだろうけど、どうすることもできない
筆者の問いかけになんら悪びれる様子を見せないどころか、万全の対策をとっていると自信すら見せるサムエルさんだが、訪れている客はそうでもないらしい。新たにやってきたネパール系の男女(20代と思われる)は、筆者が声をかけた瞬間、怪訝そうにこう言い放った。
「コロナで大変な外国人をいじめないで。仕事もないし、国にも帰られないし、たまにリフレッシュしているだけ。取材したものがニュースになるなら、名前や顔写真は使わないで」(ネパール系の男性)
この男性、筆者の取材が「外国人を排斥する」目的だと思ったのだろう。だが、取材意図を伝えると、日本政府と、彼らを取り巻く環境についての怨嗟が、堰を切ったかのように飛び出した。男性は、新宿区内で飲食店を営んでいるという。
「去年の夏、お店を閉めたらお金(時短営業実施に対する補助金)が貰えましたが、そのあとは全然貰えない。仕事が無くなった仲間がたくさんいて、デリバリーのアルバイトに雇っているが、オーダーがないから何もすることがない。もうこれ以上悪くなることはないくらい最悪で、気分転換にクラブに来ている。お金は全然ないよ。日本でも仕事がない、国に帰られたとしても仕事はない。日本は私に帰って欲しいだろうけど、どうすることもできない」(ネパール系の男性)
男性は、さまざまな支援を頼ったり、福祉系の窓口を訪れては給付金の類を利用できないか確認したが、外国人である、という事実がそれらを難しくしていると話す。