家族の遺品を整理するのは簡単ではない。思い出の詰まったものを残しておきたいという気持ちもあれば、いつまでも使わないものをおいておくのもどうなのか……と感じてしまうこともあるだろう。
「亡くなってもう8年になるんですね。新型コロナが世に広がるまでは、もう前へ前へとがむしゃらに働いていた感じですが、コロナで家にいる時間が長くなった分、いろいろと考える時間が増えて……。今年の初めに、残しておいた主人の衣類などをかなり手放しました」
と話すのは、元TBSアナウンサー・山本文郎さん(享年79)の妻・由美子さんだ。
2008年に31才差婚が話題となり、文郎さんのマネジャーとして公私ともに支え合ってきたが、2014年の2月に文郎さんが突然、「胸が苦しい」と訴え、かかりつけの病院に入院。肺胞出血と診断され、5日後に亡くなった。
愛用ジョッキの口の跡はそのまま残して……
「その日はコンサートを楽しんだ後に帰宅し、いつものように愛用のジョッキでビールを飲んでから、寝るところでした。慌てて病院に行ったのでキッチンに置いたままで、洗う間もありませんでした。告別式を終え、ふとジョッキを見ると、主人が口をつけた跡がついたままだったんです」(由美子さん・以下同)
このジョッキは、当時中学生だった2人の息子が東京ディズニーランドに行った際、文郎さんの愛称「ブンさん」という刻印を入れてお土産に買ってきたもの。文郎さんは大喜びし、以来、ほぼ毎日これでビールを飲んでいたという。もちろん、ジョッキの内側は洗っているが、飲み口部分は触らず、口の跡を残したまま祖霊舎(神道で先祖の霊を祀るための神棚)に飾っている。
ジョッキとともに飾っているのは文郎さんが「いちばん大切にしている」と言っていたストップウオッチ。
「アナウンサーとして55年以上仕事をして、時間感覚が秒単位で体に埋め込まれているような人でしたから、このストップウオッチが分身のようにも思えます。この2つを祖霊舎に置いていて、朝起きるとまず写真にキスをし、『おはようございます。いつも家族を守ってくれてありがとう』と声に出して言うんです。
毎日感謝を伝えることから一日が始まる。主人が大切にしていたものが目に入るように置いておけば、なんとなく安心なんですよね」