ライフ

【書評】プーチン・ロシアは何故執拗にシリアに関与するのか?

『コーカサスの紛争 ゆれ動く国家と民族』著・富樫耕介

『コーカサスの紛争 ゆれ動く国家と民族』著・富樫耕介

【書評】『コーカサスの紛争 ゆれ動く国家と民族』/富樫耕介・著/東洋書店新社/3520円
【評者】山内昌之(神田外語大学客員教授)

 アサド政権はシリア内戦で当初不利だった。いまや内戦前の勢力を回復したのは、ロシアとイランのなりふり構わぬ支援のおかげである。イランがシーア派国際革命の一環としてシリア・レバノンに進出するのは分かる。それでは、ロシアがシリアに過剰関与するのは何故なのか。それを解くカギは、富樫氏が本書で説くコーカサス各地の紛争にある。シリアにはチェチェン人はじめコーカサス出身のイスラム武装闘争派が多い。ロシア政府は、二回のチェチェン戦争に手こずった。プーチン大統領のチェチェン対策は単純である。

 どの場所でも、どれほど民間人がまきこまれようとも、テロリストと決めつけた集団たとえばコーカサス首長国などとは一切妥協しないことだ。他方、「首長国」もロシア市民に無差別にテロ攻撃をかけていた。また、コーカサスのテロ組織はアル=カーイダやタリバンに共感したが、それは援助を獲得するためだ。しかし、シリア内戦とイスラーム国(IS)が出現すると、「首長国」はシリア内戦に兵士として参戦することが求められた。この結果、ISに忠誠を誓う者も現れ、「首長国」は分解してしまう。これはプーチンには思う壺であった。

 他方、昨2020年11月にほぼ決着のついたナゴルノ・カラバフ紛争も最新のデータで分析されている。アルメニアとアゼルバイジャンの領土紛争が事実上の戦争に発展したカラバフ問題は、結局アゼルバイジャンがトルコから購入したドローン兵器によるアルメニア戦車の破砕で「解決」された。ただ、アゼルバイジャンが回復した被占領地やその周辺から出たアルメニア人難民の解決は、中東同様に新しい紛争を引き起こすだろう。

 またロシア軍が平和維持部隊としてコーカサス南部に常駐するのは、新たな安全保障の脅威になるのではないか。あまり知られていないコーカサスの民族と国家について、解決の展望を含めて広い視野から明快な文章で説明した労作である。

※週刊ポスト2021年10月29日号

関連記事

トピックス

中居の女性トラブルで窮地に追いやられているフジテレビ(右・時事通信フォト)
「スイートルームの会」は“業務” 中居正広氏の性暴力を「プライベートの問題」としたフジ幹部を一蹴した“判断基準”とは《ポイントは経費精算、権力格差、A氏の発言…他》
NEWSポストセブン
騒動があった焼肉きんぐ(同社HPより)
《食品レーンの横でゲロゲロ…》焼肉きんぐ広報部が回答「テーブルで30分嘔吐し続ける客を移動できなかった事情」と「レーン上の注文品に飛沫が飛んだ可能性への見解」
NEWSポストセブン
大手寿司チェーン「くら寿司」で迷惑行為となる画像がXで拡散された(時事通信フォト)
《善悪わからんくなる》「くら寿司」で“避妊具が皿の戻し口に…”の迷惑行為、Xで拡散 くら寿司広報担当は「対応を検討中」
NEWSポストセブン
中居の女性トラブルで窮地に追いやられているフジテレビ(右・時事通信フォト)
【約4割がフジ社内ハラスメント経験】〈なぜこんな人が偉くなるのか〉とアンケート回答 加害者への“甘い処分”が招いた「相談窓口の機能不全」
NEWSポストセブン
男性キャディの不倫相手のひとりとして報じられた川崎春花(時事通信フォト)
“トリプルボギー不倫”4週連続欠場の川崎春花、悩ましい復帰タイミング もし「今年全休」でも「3年シード」で来季からツアー復帰可能
NEWSポストセブン
中居の女性トラブルで窮地に追いやられているフジテレビ(右・時事通信フォト)
【被害女性Aさんが胸中告白】フジテレビ第三者委の調査結果にコメント「ほっとしたというのが正直な気持ち」「初めて知った事実も多い」
NEWSポストセブン
佳子さまと愛子さま(時事通信フォト)
「投稿範囲については検討中です」愛子さま、佳子さま人気でフォロワー急拡大“宮内庁のSNS展開”の今後 インスタに続きYouTubeチャンネルも開設、広報予算は10倍増
NEWSポストセブン
中居の女性トラブルで窮地に追いやられているフジテレビ
「スイートルームで約38万円」「すし代で1万5235円」フジテレビ編成幹部の“経費精算”で判明した中居正広氏とX子さんの「業務上の関係」 
NEWSポストセブン
記者会見を行ったフジテレビ(時事通信フォト)
《中居正広氏の女性トラブル騒動》第三者委員会が報告書に克明に記したフジテレビの“置き去り体質” 10年前にも同様事例「ズボンと下着を脱ぎ、下半身を露出…」
NEWSポストセブン
「岡田ゆい」の名義で活動していた女性
《成人向け動画配信で7800万円脱税》40歳女性被告は「夫と離婚してホテル暮らし」…それでも配信業をやめられない理由「事件後も月収600万円」
NEWSポストセブン
昨年10月の近畿大会1回戦で滋賀学園に敗れ、6年ぶりに選抜出場を逃した大阪桐蔭ナイン(産経新聞社)
大阪桐蔭「一強」時代についに“翳り”が? 激戦区でライバルの大阪学院・辻盛監督、履正社の岡田元監督の評価「正直、怖さはないです」「これまで頭を越えていた打球が捕られたりも」
NEWSポストセブン
現在はニューヨークで生活を送る眞子さん
「サイズ選びにはちょっと違和感が…」小室眞子さん、渡米前後のファッションに大きな変化“ゆったりすぎるコート”を選んだ心変わり
NEWSポストセブン