【著者インタビュー】一雫ライオンさん/『二人の嘘』/幻冬舎/1980円
【本の内容】
東京大学法学部在学中に司法試験にトップの成績で合格。「十年に一人の逸材」と呼ばれ将来を嘱望される女性判事・片陵礼子。夫で弁護士の貴志とは司法修習生時代に知り合い結婚した。義父母が建ててくれた立派な一軒家に住み、傍から見れば羨むばかりの礼子の人生を変えたのは「門前の人」だった。かつて礼子が判決を下し有罪にした蛭間隆也はなぜ裁判所の前に立っているのか。自分は間違いを犯したのか。理由を調べ、近づく中でその人柄に惹かれていく──オビにある「恋で終われば、この悲劇は起きなかった」という言葉が読後、心に深く刻まれる恋愛小説の傑作。
美貌の女性判事と、彼女が判決を下した元服役囚。二度とまじわるはずのなかった二人の男女の人生がふたたび交叉したことで、悲劇の幕が開く。
脚本家として活動してきた一雫ライオンさんの、3冊目の小説『二人の嘘』が6月の発売以来、刷を重ねている(現在6刷、2万3000部)。
「自分にとって初めての単行本で、言ってみればデビュー作のようなもの。出版状況が厳しいことも聞いていたので、『増刷が決まりました!』と担当編集者から電話をもらったときは、『うわーっ!』と声が出ました」(一雫ライオンさん・以下同)
読んだ人がTwitterに感想を投稿して、少しずつ反響が広がっていった。版元も、新人作家では異例の全5段の新聞広告を打ち、発売から1カ月ほどたったころから書店での展開も徐々に増えていったそうだ。
大人が読める恋愛小説が書きたかった
ヒロインが東京地裁の裁判官という設定が珍しい。
「警察官や弁護士、検事については、映画やドラマの中で、なんとなくこんな感じというのがあるんですけど、裁判官は、作品としてもほとんど触れたことがなくて。元裁判官が書いた新書を受験勉強のように何冊も読み、裁判を傍聴するために東京地裁に通ったりもしました。東京地裁で裁判長をつとめたかたに2時間ぐらいお会いできる機会もいただいて、量刑や3人いる判事の仕事についてなど、あれこれ質問したりもしました」
小説は、裁判関連の取材をすべて終えてから書き始めたそうだ。
「プロットを書くのが苦手なので、全体のあらすじは作らず、『十年に一人の逸材』といわれた女性判事が、何かを守ろうとして偽証をした男に惹かれ、恋に落ちる、という設定だけ考えて、1行目からいきなり書いていきました。ぼくは中年のおじさんですけど、片陵(かたおか)礼子という女性になりきって、彼女の感情が動くままにストーリーができあがっていった感じです」