私たちが最も酷使している器官の1つである「目」。さまざまなものを見るだけでなく、自分自身をも映し出す。見えにくさや乾燥など、不調を自覚しやすいのも目の特徴。ただの加齢や疲労だと見くびっていると、痛い目にあうかもしれない。
ある日から、目の見え方に違和感を持つようになった都内在住の多田典子さん(仮名・54才)は眼科を受診した。
「ハードコンタクトレンズに傷がついたのだろうと、深刻には考えていなかったんです。『念のため視野検査をしておきましょう』と言われて検査をしたところ、視野に欠けている部分があるとわかりました。眼科医の指摘から脳腫瘍が判明し、先日、手術を受けたところです」
道玄坂加藤眼科院長の加藤卓次さんは、多田さんのような患者が2~3年に1人ほどいると話す。
「視野の欠け方によって視神経のダメージの場所がわかります。それによって、下垂体腫瘍などの脳腫瘍が見つかることがあります。全身の中で、血管の状態を直接見ることができるのは目だけです。目は視神経で脳とつながっていることもあり、さまざまな疾病のサインが表れます」(加藤さん・以下同)
自分で目視はできないが、眼科で眼底検査を受けることで高血圧性の動脈硬化や糖尿病もわかるという。
「糖尿病や高血圧は外見でわかる病気ではないため、目の不調を感じて眼科を受診し、それらの疾患に初めて気づく患者も少なくありません」
意外にも、眼科では多くの重大な病気が発見されている。
病気が完治しても目の異常は悪化する
まぶたの「腫れ」もあなどれない。井上眼科病院名誉院長の若倉雅登さんはいう。
「まぶたが片方、あるいは両方腫れぼったくなっていたら、甲状腺機能亢進症(バセドウ病)の疑いがあります。眼球突出といいますが、眼球が少し飛び出て、眼球の動きが悪くなり、ものが二重に見える場合もある。症状が軽い場合は目が疲れるとか、目がしょぼしょぼする程度なので、まさかそれが甲状腺の病気だと思う人は少ない」(若倉さん・以下同)
原因は解明されていないが、目の周りの組織や筋肉と甲状腺が共通の抗体に反応するため、甲状腺が病気になると目にも異常が起こると考えられている。
「内科で甲状腺の治療を受ければ、すべて完治するわけではありません。甲状腺は改善しても、目の異常は悪化することも。目は目で治療する必要があるので、必ず眼科の受診も必要です」
まぶたの腫れは、がんを示している可能性もある。眼窩(眼球が入っている空間)に腫瘍が発生し、片目が飛び出しまぶたが腫れてしまったら、ほかのがんが目に転移している危険もゼロではない。