鋭い眼光に渋みのある声──。その“強面”で極悪非道のヤクザから朗らかな父親、はたまた宇宙人まで、幅広い役柄を演じてきた。40年前の映画デビューから国内外でオファーが絶えることのない俳優・國村隼(65)の凄さはどこにあるのか──。(前後編の前編)
松田優作とハリウッドへ
この人が出ているだけで、何かありそうな想像が膨らんでくる。
放送中の日曜劇場『日本沈没-希望のひと-』(TBS系)で地球物理学の最高権威である世良徹教授を演じる國村隼だ。
同作では、かつての後輩である日本地球物理学会の異端児、香川照之演じる田所雄介が訴える関東沈没の可能性を、世良教授は真っ向から否定していた。しかし、ついに小栗旬演じる環境省の官僚からデータ偽装を厳しく追及されると、初めて感情を露わにする。
豪華俳優陣のなかでも、怪演ぶりが際立つ香川と、その語り口や目線だけで存在感を放つ國村というベテラン俳優の演技のコントラストがはやくも話題となっている。
國村が光っているのはテレビだけではない。
公開中の米ハリウッド俳優のジョニー・デップ製作・主演の映画『MINAMATA-ミナマタ-』でも、國村は水俣病の原因となった企業・チッソの社長ノジマとして出演している。「典型的な悪徳社長にはしたくなかった」という製作陣の狙いに、國村が見事に応えたという。英語を交えてジョニーと敵対するシーンも堂々と演じぬいた。
これまで100を超える映画に出演してきた國村だが、俳優デビューは決して早くはない。
大阪で育った國村は、府立高専へ進むも4年で中途退学、友人に勧められて劇団の研究所に入る。そうして20代半ばに『ガキ帝国』(1981年)で映画デビューを果たす。主人公(島田紳助・松本竜介)と対立する不良グループのリーダー役だった。
「國村君は小生意気な顔をしているというか、ちょっと拗ねた大人顔をしていたね。それがリーダー感があるなと思ってリーダー役にしたんだよ」
そう語るのは、同作の井筒和幸監督だ。低予算でゲリラ的な撮影を敢行していた当時を振り返る。
「役者っていうのは『お前、わかってるな』というのと『わかってねーな』というのとどちらかで、こればかりは天性のものだけど、國村君はちゃんとわかってる奴だった。いつも考え込むような顔をしているからヤクザよりむしろ気むずかしいバーテンダーとかクセのある官僚や政治家とかのほうが向いていると思ったね。まぁ正直言って、当時は名前なんて覚えてないくらいでしたがね」