「静岡ショック」に自民党が衝撃を受けている。総選挙の前哨戦と注目された参院静岡補選(10月24日投開票)は自民有利という事前の予想を覆し、立憲民主党や国民民主党が推薦する無所属新人の山崎真之輔氏が5万票近い大差で勝利した。2回も応援入りした岸田文雄・首相は選挙応援の“デビュー戦”で手痛い敗北を喫した。自民党選対のベテランスタッフが語る。
「負け方が悪い。投票率は45.57%で2年前の参院選より低く、野党は候補者の一本化に失敗して共産党も候補を立てた。自民党が勝って当然の状況だったのに思わぬ大敗だった。(10月31日投開票の)総選挙に響くのは間違いない」
だが、自民党内でこの結果を“予言”していたのが菅義偉・前首相その人だ。
「このままでは静岡は負ける」
参院補選の告示日(10月7日)直後の情勢を見て、菅氏は周辺や親しい記者にしばしばそんな見通しを語っていたという。
岸田首相が選挙関係の役職をほとんど経験していないのに対し、菅氏はこれまでに自民党選挙対策総局長や選挙マシンである業界団体との窓口となる組織運動本部長を歴任し、安倍政権下では官房長官として官邸から選挙を仕切り、国政選挙5連勝を支えた「選挙のプロ」だ。
とくに静岡の選挙情勢には詳しい。それというのも、菅氏は静岡の政財界に大きな影響力を持つスズキの鈴木修・前会長と親しく、鈴木康友・浜松市長が菅応援団の「活力ある地方を創る首長の会」会長を務めるなど地元・横浜に次ぐ“第2の地盤”にしているからだ。
2019年の参院選でも静岡選挙区に深く関わった。定数2の静岡選挙区は自民党の1議席確保は確実とされ、一方の野党側は国民民主党の現職・榛葉賀津也氏に立憲民主党も新人を擁立する分裂選挙となった。当時の二階俊博・幹事長ら執行部は野党乱立で自民党の2議席確保は可能とみて、2人目の候補者擁立を検討した。このとき、“待った”をかけたのが官房長官の菅氏だった。静岡県政関係者が言う。
「国民民主の参院幹事長だった榛葉氏は、国会運営をめぐって立憲民主の方針と対立し、自民党に協力的だった。そのことに恨みを持った立憲は参院選で榛葉を落選させようと独自候補を立てたが、菅さんは協力的だった榛葉氏を助けるために自民党の2人擁立にストップをかけ、地元経済界や公明党にまで『自民党は大丈夫だから』と根回しして榛葉氏に票の一部を回してやったと見られています。鈴木修・前会長が榛葉支持に回ったのも、鈴木氏と親しい菅氏が頼んだとされる」