10月26日に6年ぶり8度目となるセ・リーグ制覇を果たしたヤクルトスワローズ。投打がガッチリかみ合い、ベンチでは若手もベテランも声を張り上げる。今年のヤクルトには1990年代の黄金期が再来したような熱気があった。チームを率いる高津臣吾監督(52)は、名将・野村克也氏から「ID野球」の薫陶を受けた“野村チルドレン”。快進撃に導いた「師の教え」とは──。(前編〈ヤクルト高津監督 野村克也氏から受け継いだ「勝ちにこだわる姿勢」〉から続く)
ボヤく野村、叱らぬ高津
高津氏と野村氏には、関係者が「正反対」と口を揃える一面もある。それが「選手との接し方」である。野村氏の育て方は、
「三流は無視、二流は称賛、一流は非難する」
というもの。それは、二流までは褒めれば伸びるが、一流は褒めても図に乗るだけだから、的確な批判や非難をして発奮させなくてはならないということだ。一方の高津氏はヤクルトの二軍監督だった2019年2月、『週刊ポスト』の取材(2月8日号)にこう断言している。
〈一番気をつけているのは「野球に関しては叱らない」ということです。叱って学んでくれればいいと思いがちですが、失敗から成功へ導くためには、何がダメだったのかを説明して、選手からも意見を聞くことで、本人が納得して次のプレーに準備できるほうがいい〉
押しも押されもせぬ主力投手として、野村ヤクルトを支えた川崎憲次郎氏が指摘する。
「ノムさんは理詰めできましたが、ボヤきも多かった。一方の高津監督は選手時代からフレンドリーで、ガミガミ怒ることはしません。元々性格が明るい人だし、ベテランと若手を差別しないタイプなので、選手の輪の中に入ってみんなと同等に接しているはずです。
一方、グラウンドで理不尽なことが起きれば、選手を守るために激高します。その姿を見た選手たちは、監督は自分たちの味方だと発奮するはずです。特にいまの若い選手にとって、理想の監督ではないでしょうか」
野村監督時代にヤクルトで活躍した「ギャオス内藤」こと内藤尚行氏も「高津監督は選手の懐に入るのがうまい」と語る。
「ノムさんは選手との間に一線を引いたけど、高津監督は選手の兄貴分のような存在で、選手と一緒に騒いでバカになれるし、相手をうまくイジることができます。盛り上がる雰囲気を上手に作れることが、いまのチーム作りにも生きています。12球団で最も“監督ヅラ”をしない監督だから、選手もそんな指揮官のために頑張れるんじゃないかな。その点はカリスマ性のあった野村監督とは正反対です」(内藤氏)
企業社会でも上司が若手社員に厳しく接することが御法度となるなか、かつて鉄拳指導が当たり前だったプロ野球の世界でも、令和流の指導が求められている。現に高津氏は二軍監督時代、「叱らずに伸ばす」方針を実践し、村上宗隆や奥川恭伸など有望な若手を入団後すぐに一軍で活躍できる選手に育てあげた。