肌寒い日が増え、日ごとに秋の深まりを感じるこの頃。読書の秋を楽しむための、おすすめの新刊4冊を紹介する。
『女性皇族の結婚とは何か』
工藤美代子/毎日新聞出版/1760円
若い人ほど眞子さまを祝福する一方、伝統やノブレス・オブリージュ(高貴な人ほど義務がある)を意識する世代は複雑。そんなことを論じる一冊かと思いきや、著者は迂回路を取る。貞明皇后(大正天皇の妻、昭和天皇の母)の生涯を振り返るのだ。そこには貞明(ていめい)皇后のような賢明な人がおられたら、大きな騒ぎにならなかったのにという無念な思いが潜む。皇室の未来を考えたい。
『民王 シベリアの陰謀』
池井戸潤/KADOKAWA/1760円
冒頭で大笑い。総理大臣武藤泰山の息子で漢字の読めない翔が答弁に立ち、議場の爆笑と失笑を買うのだ。ツカミは充分。高西(こうさい)環境大臣が謎のウイルスに感染し凶暴化、飛行機で隣席だった並木教授も凶暴化する。ウイルスはどこから? 翔や秘書の貝原達はシベリアに飛ぶ。ウイルス、パニック、緊急事態宣言、陰謀論。コメディタッチながら現実の戯画化には笑えない重みも。
『やくざ映画入門』
春日太一/小学館新書/902円
卒論がやくざ映画だった三浦しをんさん。女性だってやくざ映画は好きだ。やくざ映画が庶民を慰めた時代があった。高倉健、若山富三郎、渡哲也、菅原文太など名だたるスターを輩出。金字塔は深作欣二監督の『仁義なき戦い』。近年では『半沢直樹』の構造がやくざ映画だとする。個の誇りが爆発し、ドンパチの代わりに土下座がある、と。初心者には『アウトレイジ』を薦める。
『杉浦日向子ベスト・エッセイ』
杉浦日向子/ちくま文庫/924円
著者を『お江戸でござる』の解説者として記憶している方も多いはず。病を得て漫画家を廃業(=隠居)、後半生は江戸風俗研究家として活躍した。「江戸の文物に触れる時」普段あまり使わない感性が働き「うれしがるのがわかります」と本書にある。座右の銘は「働かない・食わない・属さない」。最後の晩餐には塩おむすびを所望。質素と質実が人柄の華になる希有な女性だった。
文/温水ゆかり
※女性セブン2021年11月4日号