「ヤクザの組織の中では、『ヤクザは24時間ずっとヤクザやから、気を抜いたらあかん』とよく言われます。家に帰っても気を張れ、緊張感を持て、ということですが、実際には、家に帰れば子供や孫をこれでもかとかわいがったり、奥さんに怒られたりする。恋愛だってします。それが人間なんですよね。
角度を変えたら見えてくるリアルは、ヒューマンドラマだったり、コメディーだったりする。この作品では、そこを突きたかった」
ムショぼけ──一般の人にはおおよそなじみのない言葉だが、妖しげでシリアスであると同時に、どこかコミカルな響きも併せ持つ。9月上旬発売の小説『ムショぼけ』(小学館文庫)の著者・沖田臥竜さん(45才)はそう語る。
同作は10月スタートの連続ドラマ(ABCテレビ・日曜23時55分~、テレビ神奈川・火曜23時~)にもなり、関西地区から火が付き、全国に大きな反響を広げている。
「ムショぼけ」とは長い刑務所暮らしで、日常生活のリズムや常識を忘れてしまった精神状態を表すという。医学的には「拘禁反応」と呼ばれる。
ドラマに、主人公の元兄貴分役で出演する木下ほうか(57才)が語る。
「一言でいえば、原作が“ええところに目をつけられたな”ということです。ムショぼけという言葉はシリアスな雰囲気やけど、小説やドラマを見ると、ガラッとイメージが変わる。“ああ、そういうことやったんや”といい意味で裏切られる作品ですね。意外性からくる高ぶりで、本当に多方面から“いい作品だね”と反響があります」
沖田「普通の人は遊びたいのをがまんして、親の言いつけを守って、夕方に帰って勉強して、大人になってきた。それなのに親や社会に歯向かってヤクザになって、40過ぎて“ヤクザやめます、真面目になります”と言っても、世間が厳しいのは当たり前です。そんなに甘くない。
だけど、本作品の主人公の元ヤクザの陣内が、それに気づいて一生懸命に生きようとする姿が、頑張れば頑張るほど、滑稽であったり、ロマンがあったりする。まっすぐに悪戦苦闘するから、周囲の人間も最低限は助けてやろうか、となる。それが人間ドラマになるんです」