初回から3話連続で世帯視聴率15%台をキープし、好調が続く連続ドラマ『日本沈没-希望のひと-』(TBS系)。好調の背景について、コラムニストのペリー荻野さんが分析する。
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『日本沈没-希望のひと-』は、小栗旬と松山ケンイチと杏、ふたりの大河ドラマ主演俳優と朝ドラ主演女優と「日曜劇場」の名物男となった香川照之を中心に、豪華キャストが過去に何度も映像化された小松左京の名作に挑んでいる。このドラマを見ていて、つくづく思うのは、令和のSFドラマは、「リアル」も大事だが、同時に「モヤモヤ」も大事だということだ。
モヤモヤは第一話からいきなり出てくる。舞台は2023年の東京。なんと再来年の話なのである。異端の地震学者・田所(香川照之)が、近い将来、関東が沈没すると発言。環境省の天海(小栗旬)は、田所を黙らせるため、その説を否定する東大の世良教授(國村隼)らと潜水艇で海底を調査する。田所は自説の証である“鋭角の断層”があったと主張するが、世良はあくまで否定。決定的証拠となる録画されて映像には断層など映っていなかった!?
「前置きはいい。要件を言え」と下唇を突き出す田所。昆虫愛を炸裂させる「カマキリ先生」の延長上にいるような迫力の香川の博士っぷりはすごいが、その田所は、訪ねてきた天海に「近くこの島が沈む」とペラペラと紙の資料を広げて見せる。今どき、紙ですか先生…その上、「私の直感とイマジネーションがそう言ってるんだ」なんてことを言われても。モヤモヤは募るばかり。
しかし、実際はモヤモヤで正解なのである。『日本沈没』というタイトルが出た時点で、視聴者は、大混乱になることは大方わかっている。沈没が本当に起きるのか、それはいつか、みんなの意見はまとまるのか、対策はどうするのか。モヤモヤするから視聴者は引っ張られるのだ。
また、映像面でもモヤモヤは役に立つ。田所や天海が潜水艇の丸い窓から見た海底の景色はかなりのモヤモヤでよく見えない。私などは「あのダイオウイカだって、もっと鮮明に見えたぞ」と思ってしまった。
思えば、70年代に公開された映画版、ドラマ版の『日本沈没』は、特撮作品だった。製作・企画を手がけたのは『ゴジラシリーズ』で知られる田中友幸。東宝が当時、史上最高の製作費5億円をかけたという映画では巨大な橋が流され、家屋が破壊され、富士山の噴火も起こる。「のたうつ日本列島」の姿は、精巧なミニチュアなどを駆使した日本が誇る特撮技術で作られている。その志は、いかにリアルに見せるかだったはずだ。
一方、今年の『日本沈没』で、田所博士の予言通り、島が沈むシーンは、空撮も含めて、とってもリアルだった。今やリアルにしようと思えば、映像技術でどこまでもできる。だが、今回は、その技術でもって、鋭角の断層がモヤモヤと隠されたのだ。
副首相・里城(石橋蓮司)に圧力をかけられる首相の東山(仲村トオル)の対策ははかどらず、ここでもモヤモヤ。そんな中で物語はいよいよ「半年以内に関東圏沈没」が国民に知られることになる。今後、リアルな災害シーンも出てくるはず。モヤモヤはすべて解決するのか、視聴者に委ねられるのか。モヤモヤは、やっぱり人を惹きつける。