生涯現役時代と言われても、今の仕事でいつまで食べていけるのか……そんな不安から新たな資格取得に励む中高年が増えている。しかし、そこから泥沼に嵌まる人も多いという。埼玉県某市の職員・吉田保さん(仮名・65)は、数年前の同窓会で友人にこんな話を聞かされた。
「人生100年時代を乗り切るためには、少しでも長く働くこと。今の会社にしがみついていても、どうなるかわからない。それより資格を取って独立し、腕一本で生きていくほうが確実だ。だから俺は税理士の学校に通っているんだ」
老後の生活に不安を感じていた吉田さんは友人の言葉に大いに刺激を受けた。早速資格学校のパンフレットを取り寄せ、自身も資格取得に乗り出した。
生来真面目な性格の吉田さんはせっせと勉強に励み、3年で税理士の資格を取得した。
「合格の通知を見て舞い上がってしまったのでしょう。その後大きな買い物をしてしまい、今は後悔の毎日です」(吉田さん)
今、シニア世代の資格取得への挑戦がブームとなっている。
吉田さんが挑戦した税理士の試験は、2015年は全体の合格者が6902人で、20年は5402人に減少しているのだが、41歳以上を見ると1199人から1334人に増加している(国税庁調査)。
同じ士業で人気の高い司法書士試験も50歳以上の合格者が2016年は79人だったが2020年は110人とこちらも増えている(法務省調査)。
社会保険労務士の合格者も2011年は50歳以上が全体の22.6%だったが、2020年には27.5%に増加(厚生労働省調査)した。元資格学校の講師で、現在は社会保険労務士として活動する須田美貴氏が次のように説明する。
「各監督官庁によって統計のとり方がバラバラなので横並びで比べるのは難しいのですが、弁護士や公認会計士、司法書士などいわゆる士業の資格でシニアの受験者が増えているのは事実です。またファイナンシャルプランナーや民間の資格も同様で、シニアの資格挑戦は全体的に増えているといっていいと思います。
今年4月に改正法が施行された高齢者雇用安定法の中で70歳までの定年引き上げや継続雇用制度の設置が努力目標として掲げられたおかげで、少しでも長く働きたいというシニアが増え、そのために資格を持っておけば有利だろうという考え方が広まったことなどが背景にあります。ただ、資格取得後の現実は結構シビアなんですよね」