認知症の人はなぜ、何度も同じことを聞いてしまうのか?──認知症全体の約67%を占める「アルツハイマー型認知症」は、脳の海馬という領域の萎縮が原因とされている。海馬は脳に入ってきた情報を保持し、中から必要な情報をセレクトする部位で、それが萎縮すると、つい最近の記憶が苦手になってくる。「短期記憶の低下」により同じことを何度も聞いたり、言ったりといった行動が多くなる。覚えようとしても、すぐ忘れてしまうので、「あれを聞かなければ」と思い、何度も確認してしまうのだ。
「ちゃんと覚えていたい、周囲に迷惑をかけたくない」と思うのは人として当然の気持ちである。忘れてしまうことが不安で、常に記憶しなければと意識している状態だからこそ何度も聞くのだが、このとき対応する側の心に余裕がないと、つい「何度言ったらわかるの!!」となってしまう。理学療法士の川畑智氏はこう話す。
「認知症の人は決して記憶することができないのではなく、記憶する仕方がわからなくなってしまう状態なのです。脳の中には人間の情動反応を処理する扁桃体という領域があり、ここが先に刺激されてから記憶を司る海馬へ情報が伝達されます。したがって、認知症の方には、感情に訴えるように、気持ちを揺さぶるように語りかけてあげることが大切なのです」
まずは本人の覚えていたいという気持ちを尊重し、初めて聞くようにやさしく接する。不安を取り除き、気持ちに訴えかけ、心に残るような、いつもと違う対応をすることで、情報が記憶として定着する手助けを心がけよう。