岸田文雄・首相が「最優先でお届けする」と国民に約束した数十兆円の経済対策だが、実権を奪われた安倍晋三・元首相と麻生太郎・副総裁(2A)によって、岸田総理を引きずりおろすための“罠”が仕掛けられている。
安倍氏は選挙応援で「思い切った財政政策を躊躇なく行なわなければならない」と演説し、いまや「タカ派のマドンナ」としてポスト岸田の有力な総裁候補に挙げられる安倍側近の高市早苗・自民党政調会長も「財政再建路線の凍結」が持論だ。一見、岸田首相のバラマキ路線を後押ししているように見えるが、このテーマでは麻生氏をバックにする財務省が首相の前に立ち塞がる。
経済対策を「バラマキ合戦」と批判した矢野康治・財務次官をはじめ、麻生氏の義弟で後任の鈴木俊一・財務相も、補正予算について「財政健全化は堅持していかなければいけない」と断言している。実力者の麻生氏を後ろ盾にした財務省は、予算編成で岸田首相のバラマキに「財源がない」と徹底抗戦する構えだ。
岸田首相が国民への約束通り大型経済対策を強行しようとすれば、財務省の猛反対を食らうし、逆に麻生氏の顔色をうかがって“しょぼい経済対策”で誤魔化せば、安倍―高市氏ら党内のバラマキ派から激しい突き上げに遭う。
岸田首相にとってまさに「前門の麻生、後門の安倍」なのだ。
そのうえ、高市氏は何を考えたのか、法人税に手を突っ込む予定だ。「(企業が持つ)現預金に課税するかわりに、賃金を上げたらその分を免除する方法もある」と突然ぶち上げて経済界の反発を招くなど、政調会長の立場で政権を引っかき回しているとしか思えない。政治アナリストの伊藤惇夫氏が指摘する。
「これまで9年近く手を携えてきた安倍さんと麻生さんが、岸田内閣になって逆のことを言い出した。だが、2人が今もつながっているのは間違いない。私は政治家同士の盟友関係というのは、結局は利害関係だと思っている。その意味では今、甘利さんの力が強くなってきていることに安倍さんも麻生さんも警戒感を高めている。阿吽の呼吸で高市氏を使って、岸田-甘利コンビがどこまで対抗できるか揺さぶりをかけているのではないか」
このままでは、近く召集される臨時国会で岸田首相は何も決められずにいきなり立ち往生することになりそうだ。
※週刊ポスト2021年11月12日号