朝鮮人民軍所属の国境警備隊員が9月30日の夜間勤務中に、任務を放棄し、中朝国境の川を泳いで中国側に渡り、脱北していたことが明らかになった。この隊員は常々、国境警備隊の仲間に「中国は経済的に繁栄していてうらやましい」などと話していたという。また、実弾を装填した自動小銃で武装しており、北朝鮮側は中国側に警戒を強めるよう通知した。米政府系報道機関「ラヂオ・フリー・アジア(RFA)」が報じた。
この隊員は北朝鮮東北部の咸鏡北道武山に駐留する国境警備隊員で、武山の住民は「脱走兵は20代で、過去6年間、国境警備隊に所属していたが、上官と特に対立することもなく、任務態度もまじめで、これまで問題を起こしたことがない模範兵だった」とRFA韓国語放送に語ったという。
しかし、ある軍関係者は「この隊員は2020年初めに、新型コロナウイルスの感染拡大で、わが国が中国との国境を閉鎖したことによって、対中貿易が停止し、北朝鮮経済が壊滅的な打撃を受け、食糧不足や餓死者の発生につながっているなどと不満を漏らしていた」と述べている。
朝鮮人民軍の諜報部隊である軍事保衛司令部は、兵士が行方不明になると即座に捜索を開始したが、逮捕することができなかったため、この事件を中央政府に報告。事件は軍の最高司令官である金正恩総書記にも報告され、「最高司令官は脱走兵に国家に対する裏切り者の烙印を押し、彼を見つけるまで追跡するように命じた」とRFAは報じている。
これを受けて、同司令部は特別捜査チームを中国側に派遣。中国人民解放軍や吉林省政府などに対して、脱走兵が自動小銃で武装していることを通告し、脱走兵が移動した可能性のあるルート上のすべての駅やバス停を徹底的に捜索したが、いまも脱走兵は見つかっていない。
RFAによると、北朝鮮の国境警備隊員の脱走は今回が初めてではなく、今年3月にも6人の隊員グループが持ち場を放棄し、北朝鮮東北部両江道の中部にある恵山(ヘサン)市の鴨緑江を渡って中国吉林省に逃亡した事件が発生している。この6人も新型コロナウイルスの感染拡大で、過労と国境閉鎖のための食糧不足を理由に脱走を決意したという。