自動車産業に「100年に1度」といわれる大変革期が訪れている。EV(電気自動車)化の波は、日本が誇る大手自動車メーカーも無視できない流れになっている。
そのなかで、エンジンからモーターへの変化をチャンスと捉え、大いなる野望を叶えようとしている日本企業があった。1973年の創業から永守重信会長(77)が一代で築いた日本電産だ。
10月26日、日本電産の決算発表によれば同社の2022年3月期の純利益は前期比21%増で過去最高の1480億円、売上高も11%増の1兆8000億円となる見通しだという。
いま、経済紙なども注目するのが、同社に根付いた“永守流経営”だ。経済誌『経済界』編集局長の関慎夫氏が語る。
「日本電産といえば、積極的なM&Aで成長した会社で、“M&Aで失敗したことがない会社”として知られています。買収した会社には永守会長自らが中に入り、陣頭指揮をとって経営を立て直し、成長させてきました。
近年の名経営者といわれるユニクロの柳井正社長のような戦略家タイプや、ホンダ創業者の本田宗一郎のような技術屋タイプとも違い、製造業として製品の開発、製造、販売をすべて取り仕切ることができる経営者です」
日本電産は「2030年度には売上高を10兆円にする」と掲げている。永守会長は「125歳まで生きる」と公言し、「50年後には(売上高)100兆円を目指したい」とも語っている。あまりに野心的な目標に聞こえるが、関氏はこう語る。
「日本電産は中期戦略として、今年度の売上高1.8兆円の見通しから、まず2025年度には売上高4兆円の実現を目標としています。そんな急成長はありえないように見えますが、永守さんが言うと、もしかしたらと思わせるところがある。実際に日本電産は急成長していて、勢いもある。
自動車産業はここに来て本格的にEVシフトが進んでいます。既存の大手自動車メーカーがEVの開発に舵を切る一方、ベンチャーのような新興勢力や、GAFAなど世界的IT企業も参入しています。
EVの要素は車体とバッテリーとモーターです。自動車産業の未来をモーターが担う時代が到来しようとしており、日本電産のようなモーターメーカーにとっては今が最大のビジネスチャンスです」
日本電産は、コンピューター用ハードディスクのモーターでは世界市場の8割を占めるモーターメーカーに成長した。
世界の自動車産業は、「エンジンからモーターへ」という大地殻変動のさなかにあり、欧州などでは今後10年、20年で内燃機関の自動車を販売するのはさまざまな規制により難しくなる。10月25日には米EVメーカー、テスラの時価総額がトヨタの3倍以上にあたる1兆ドル(約114兆円)に到達し、世界的なEVシフトを実感させた。
そんななかで日本電産が中核事業の一つに位置づけているのがEV用駆動モーターで、2030年には世界シェア40~45%を目指すとしている。EVシフトの大波にうまく乗れば、「売上高10兆円」は決して夢ではないという。