今、シニア世代の資格取得への挑戦がブームとなっている。たとえば、公認会計士の試験は、願書提出者が2011年は2万3151人だった。ところが直近の2020年には1万3231人と激減している。しかし55歳以上の出願者だけを見ると308人から383人に増加しているのだ(金融庁調査)。
こうした状況で、「資格を取ったはいいが、仕事が来ない」と、理想とギャップの現実に苦しむ人も現れているが、東京都八王子市在住の新里英雄さん(仮名・85)は「資格を取れるだけでも羨ましい」と語る。新里さんが資格取得の挑戦をはじめたのは今から20年ほど前。60歳で大手生命保険会社を退職した後だった。
「地元の介護保険審議会で審議員や町内会のボランティアなんかをしているうちに、今後も社会の役に立つために働きたいと思うようになって、行政書士の資格を取ろうと考えたんですよ。
それから20年やってるけど、いまだに取れない。これまで資格学校に数百万はつぎ込んできたけどだめだね。元来が遊び好きでね、週に1回教室に通っては、その後に仲間と飲みに行っちゃう。最近ではそっちのほうが楽しくなってね。今じゃボケ防止にやってるようなものですよ(苦笑)」
現役のファイナンシャルプランナーで『資格を死格にしない資格活用法』(合同フォレスト刊)の著書もある高橋ゆり氏の解説。
「資格学校でお話をする機会があるので分かるのですが、何年も合格できずにズルズルと学校に通い続けてしまうシニアはけっこう多い。
退職金をもらったのでお金に余裕がある。子育ても一息ついて時間もある。家にいると奥さんがうるさいのでとりあえず資格学校にでも行くか、みたいな人が一定数いるんですよね。こういう人は学校に通うのが目的になってしまい、合格しなくてもいいとどこかで思っているのかもしれません。ただ、同じような立場にありながら、合格していく人もいる」
その分かれ道はどこにあるのか。
「なぜ資格を取るのか、ということをきちんと考えているかいないかに尽きると思います。
中には『行政書士ってどんな仕事なんですか』みたいなことを平気で聞いてくる人がいます。要するに自分が勉強している分野について知識ばかりでなく興味すらない。そういう人は多分ずっと合格できません。
受験するからには合格だけを目標にするのではなく、合格した後、その資格をどう活かして生きていくのかという明確なビジョンを持っておくことが大切です」
※週刊ポスト2021年11月12日号