歳を取るにつれて進む「多剤処方」は高齢者の健康を左右する大きな問題だ。厚生労働省の統計によると、薬は高齢になるほど増え、75歳以上の4割超が1回の診療で「5種類以上の薬」を処方されている。国際医療福祉大学病院内科学・予防医学センター教授の一石英一郎医師が指摘する。
「高齢になると、肝臓や腎臓の『薬を代謝・排泄する機能』が低下して薬が長く体内に留まり、効きすぎによる副作用が出やすくなります。薬の種類が多いほど、リスクを抱えることになるのです」
そして気をつけなければならないのが、複数の医療機関や薬局にかかることで、知らない間に「危ない組み合わせ」の薬を飲んでしまうことだ。
そもそも医師や薬剤師が参照する薬の添付文書には、深刻な相互作用を来たすなどの理由で「併用禁忌」「併用注意」の薬が記載されているが、実際にその組み合わせが処方されている現実がある。銀座薬局代表で薬剤師の長澤育弘氏が解説する。
「医師が薬を処方する際、電子カルテ上には『併用禁忌』『併用注意』の警告表示が出ます。しかし、複数の医療機関を受診する患者さんについて、飲んでいる薬を一人の医師が把握するのは困難です。最近はコロナ禍の受診控えによる主治医とのコミュニケーション不足で、多剤併用リスクが増すことが懸念されます」
薬が効きすぎてしまう
そうした危ない組み合わせは、高血圧や糖尿病など身近な生活習慣病の薬にも多い。50~60代の現役世代で飲み始め、その後10年以上服用し続けることもあるため、幅広い世代で注意が必要だ。
薬を飲んでもなかなか血圧が下がらず、複数の降圧剤が処方されることがある。だが、カルシウム拮抗薬やサイアザイド系利尿薬は、ほかの降圧剤との併用で効果が増強される恐れがある。
「高齢者ほど、薬が効きすぎることによる低血圧症状に注意が必要です。特に脳への血流が減少するとめまいや立ちくらみを起こし、転倒による骨折から寝たきりになる恐れもあるので、とりわけ注意が必要です」(一石医師)