自動車産業に「100年に1度」といわれる大変革期が訪れている。EV(電気自動車)化の波が押し寄せるなかで、エンジンからモーターへの変化をチャンスと捉え、大いなる野望を叶えようとしているのが日本電産だ。
世界のEV市場が急拡大するなかで、日本電産の動きは日本の大手自動車メーカーを尻目に頭一つ抜けていた。永守重信会長(77)は早くからEVの時代を予見して、大波を受け止める体制を築いてきた。
いま同社が中核事業の一つに位置づけているのがEV用駆動モーターで、2030年には世界シェア40~45%を目指すとしている。EVシフトの大波にうまく乗れば、永守会長が掲げる「2030年に売上高10兆円」も決して夢ではないという。
自動車メーカーを下請けに
2020年11月に開催された「世界経営者会議」で、永守会長から飛び出した言葉は刺激に満ちていた。
「自動車産業は日本の基幹産業であり、世界的な競争に勝ってもらいたい。系列取引から脱却してもらわないといけない。2030年以降に自動車の過半数がEVになると(価格競争が起きて)自動車価格は現在の5分の1程度になるだろう」
「自動車メーカーがハードで競争する時代は終わり、自動運転などソフトでの競争になる。ハード部分は我々のような専業メーカーに任せてもらいたい」
立教大学ビジネススクールの田中道昭教授前出の田中教授はこう読み解く。
「『自動車価格は5分の1になる』のが現実的かどうかはともかく、自動車がコモディティ化(機能や品質に差がなくなり、一般的な商品になること)することを示唆しています。こうした今の流れを意識して戦略を立てることができるのかが今後の生き残りのカギとなりますが、同社にはそれがあると思います」
日本電産社長の関潤氏(元日産自動車副社長)は4月の決算発表会見で、駆動ユニットやパーツの標準化が進むと、自分たちがメーカーの仕様に合わせるのではなく「我々が作るモーターに対して顧客が合わせてくるのではないか」と述べていた。