家畜の糞尿処理は厄介だ。乾燥させ畑の肥料にしても、窒素含有量が多すぎると生育障害を引き起こす可能性がある。とくに窒素量を多く含むのが鶏の糞である。
ある日、広島大学の教授たちが鶏糞の窒素量過多について雑談を交わした。
「窒素をアンモニアに変換すればいいのでは」
口火を切ったのは松村幸彦氏。バイオマスの熱化学的変換を専門とする研究者である。鶏糞から回収したアンモニアを肥料にする手もあるが、需要量には限りがある。ならば、燃やしても二酸化炭素を排出しないエネルギー利用はどうか。すると、専門の異なる他の教授たちが続けた。
「高温メタン発酵ならアンモニアもメタンもできる」
「さらに、水素も生成しては。水素は燃料に加えると燃焼効率が上がるから」
さっそく同大学内の鶏舎から鶏糞を調達し、共同研究を開始。気が付けば、鶏糞からいくつもの素材を抽出し、さらに高温高圧の水処理やガス配合の調整を行なうことで電気エネルギーが増大するとの大発見へと繋がっていった。
広島大学は、2021年に「カーボンニュートラル×スマートキャンパス5.0宣言」を行ない、2030年までに温室効果ガスの排出量と吸収量を差し引きゼロにする目標を掲げた。松村氏たちの研究は大学の意向と一致、地域循環型電気エネルギー供給の新モデルとして、社会実装への第一歩を迎えようとしている。
取材・文/山本真紀 撮影/小川伸晃 図版/タナカデザイン
※週刊ポスト2021年11月12日号