生涯現役時代と言われても、今の仕事でいつまで食べていけるのか……そんな不安から新たな資格取得に励む中高年が増えている。
たとえば、公認会計士の試験は、願書提出者が2011年は2万3151人だった。ところが直近の2020年には1万3231人と激減している。しかし55歳以上の出願者だけを見ると308人から383人に増加しているのだ(金融庁調査)。
同じ士業で人気の高い司法書士試験も50歳以上の合格者が2016年は79人だったが2020年は110人とこちらも増えている(法務省調査)。社会保険労務士の合格者も2011年は50歳以上が全体の22.6%だったが、2020年には27.5%に増加(厚生労働省調査)した。
しかし、合格後に問題に直面した人もいる。55歳で勉強をはじめ、60歳を過ぎて社会保険労務士の資格を取得した柄本孝二さん(仮名・63)の話。
「社労士は試験に合格したあと、原則2年間の実務経験がないと正式な登録はできないのですが、社会保険労務士会連合会の実施する事務指定講習というものを受講することでこの2年の実務が免除されるのです。だから試験後合格者の多くがこれを受ける。
会場が決まっているので、そこに開業セミナーなどを売り込む業者の人が集まるんです。私も合格したという喜びからハイな状態だったし、当時は手元に退職金もあったので、全10回で30万円の講座に思わず登録してしまいました。ただこれを受けてもあまり役に立ったとは思えないんですよね。だっていまだに社労士では食えていませんから……」
社会保険労務士として活動する須田美貴氏の説明。
「合格したひよこをターゲットにして利益を上げようとするこのような方法を私は“ひよこ喰い”と呼んでいます。彼らはセミナーに参加するだけで仕事がどんどん入ってくるみたいな営業トークで近づいてくるのですが、そんな夢のような話はない。甘言に騙されないためには自分の頭で考え行動することです」