独り暮らしの老人が、散乱した部屋で、必死に弁当に食らいつく──。福島あつしさんの写真は昨年の「KYOTOGRAPHIE京都国際写真祭」で話題を呼び、今年、写真集『ぼくは独り暮らしの老人の家に弁当を運ぶ』(青幻舎)が出版された。福島さんが独り暮らしの老人に弁当を届けるアルバイトを始めたのは2004年。「豊か」だと思っていた日本のイメージは一瞬で崩れ去った。その後、日本の高齢化が加速する中で、福島さんは葛藤を繰り返しながら、独居老人の姿に人間本来のたくましさ、しぶとさを見出していく。老いて独りで生きることの厳しさと尊さを写真に撮るまでの道のりを伺った。
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こんなところに人が棲んでいるのか、という衝撃
──独り暮らしの老人に弁当を運ぶ仕事を始めたきっかけを教えてください。
福島:アルバイトを始めたのは22歳のときで、写真は関係なく、純粋にお金を稼ぎたいから始めました。タウンワークか何かで仕事を探していて、面白そうだなと思ったんです。高齢者に弁当を届ける会社って、今は増えていますが、17年前は珍しかったんです。で、初日に衝撃を受けました。弁当配達の仕事には安否確認も含まれているので、家の中に入っていくんです。そうすると、家の中がぐちゃぐちゃだったり、強烈な臭いがしたり。うわーって。こんなところに人が棲んでいるのか、日本ってこんな国だったんだ、と思ってしまいました。
──独居老人には様々な事情があると思いますが、お客さんはどんな人が多かったんですか?
福島:タワーマンションに住んでいるようなお客さんもいたんですが、多くは、中流といいますか、ごく普通の人たちだったと思います。だから経済状況と関係なく、心身のコントロールがきかなくなった結果、独りでこういう状況に陥っている、という感じの人が多かった。普通の家庭の最後の姿だけに、ショックを受けたんだと思います。それまで漠然と抱いていた、縁側でお茶を飲み、子や孫たちに囲まれてほのぼの暮らす、という老後のイメージが崩れていきました。
──なぜ、お客さんたちの撮影を始めようと思われたのでしょうか。
福島:きっかけは、アルバイトを始めて半年くらいたったときに、弁当屋の店長さんが勧めてくれたことです。僕が大学(大阪芸術大学)時代、写真をやっていたことを話していたからですね。ただ、店長さんは、笑顔の写真などを撮ってプレゼントしたらお客さんが喜ぶんじゃないか、という感じで言ってくれたんですが、僕は衝撃が強すぎて、この状況を撮るなんて無理だと思いました。まして、お客さんに「にっこり笑ってください」などと言ったら嘘になるだろうと。