「全国から落選運動を強烈にやられて、非常に誤解を拡大するような喧伝が行なわれた」。小選挙区(神奈川13区)で敗北した自民党の甘利明・前幹事長はテレビの開票番組で口惜しそうに“敗戦の弁”を語った。
経済再生相時代に起こした政治資金スキャンダルを厳しく批判され、ネットなどで落選運動が展開された。本人は前回総選挙でダブルスコアで勝利したことで「禊ぎは済んだ」と思っていたようだが、説明責任を果たさないまま幹事長に就任して権力を握ったことで有権者の「怒りの1票」を呼び起こしたのだ。
今回の総選挙では甘利氏をはじめ、石原伸晃・元幹事長、平井卓也・前デジタル担当相など大物議員が相次いで過去の言動を批判されて落選した。
有権者が選挙に際して「誰を選ぶか」という“受け身の選択”ではなく、個々の政治家の言動や政治姿勢、スキャンダルを検証し、「こんな政治家を当選させてはならない」と呼びかけて1票の力で鉄槌を下す。本誌・週刊ポストが提起した「落選運動」(10月15・22日合併号)が“破壊力”を示した選挙と言える。
ところが、有権者が小選挙区で「NO」を突きつけたはずの政治家たちが、重複立候補した比例代表で続々と復活当選してしまった。
大臣時代に「USBは穴に入れるらしい」など数々の迷言・失言を世界に報じられ、最後は岩手県選出議員(当時)のパーティーで「復興以上に大事なのが高橋(比奈子)議員」と発言し辞任に追い込まれた桜田義孝・元オリパラ担当相。選挙区では5万3000票以上もの得票差で敗北しながら、南関東ブロックの比例代表で復活当選した。
有権者には到底納得できない結果だろう。政治学者の岩井奉信・日本大学法学部教授が指摘する。
「有権者が選挙区で落選させた候補が比例代表で復活当選するのは“落選を執行猶予する”というお目こぼしを認めること。健全な選挙制度とは言えない。そもそも小選挙区制は有権者が政権選択しやすくなるように導入された。1人しか当選しないから、与党の政策や候補が気に食わなければ落選させやすいはずだった。
しかし、比例代表への重複立候補という救済措置をつくったためにおかしな制度になった。似た制度のドイツでは、政党幹部など党に欠かせない一部の政治家だけを例外的に比例重複させるが、日本の大政党は選挙区のほとんどの候補を重複立候補させ、順位も差をつけない。不祥事を起こした政治家を比例で救済できるわけです」