いよいよ竜王獲得に王手と、藤井聡太三冠の快進撃が止まらない。「現役最強」とも称される渡辺明名人は、自身にとって脅威となる若き棋士をどう見ているのか。また、「4強時代」と言われる将棋界の勢力図はこれからどう変わるのか。11月12、13日の竜王戦第4局を前に、将棋観戦記者の大川慎太郎氏がに胸の内を聞いた。(全4回の第2回)
【文中一部敬称略】
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まずは最もシンプルな問いから。なぜ藤井はこれほど強いのだろう。5年のキャリアで通算勝率8割4分は誰も成し遂げていない数字だ。今までの強豪棋士とは何が違うのだろうか。
「頭の回転の速さですね。計算力と言い換えてもいいかもしれません。藤井さんは短い時間でも大量の変化を読むことができます。例えば同じ10分間でも、ほかのトップ棋士より読む量が段違いに多いんです」(渡辺明名人、以下同)
渡辺と藤井の対戦成績は1勝8敗(未放映のテレビ対局は除く)。タイトル戦で初めて顔を合わせたのは昨年6月の棋聖戦第1局だ。この将棋の終盤戦の入り口で、渡辺は藤井のすさまじい読みを目の当たりにする。
109手目▲1三角成―─。これが渡辺が仰天した藤井の超絶手だった。角を成って渡辺玉に王手をしたが、これを指すともう後戻りはできず、その後に敵から凄まじい王手ラッシュを食らうことになるのだ。
実際に渡辺は126手目から156手目までひたすら藤井玉に王手をかけ続けた。詰むや詰まざるやだ。終盤戦なので時間が切迫しており、わずか2分しか残っていなかった。だが藤井はひとり、詰みなしと読み切っていたのだ。裸玉で盤上を駆け回り、渡辺の強烈な追い込みを振り切ったのである。
「自分が見た中では、かつてない勝ち方です。時間があってもあの自玉が詰むかどうかを読み切るのは不可能ですが、藤井さんにはできてしまう」
これまでに多くの棋士が藤井将棋の長所についてあちこちで語っている。なるほどと思うものばかりだが、同時に疑問も膨らんでいく。なぜ、藤井はその能力を身につけることができたのだろうか。渡辺にぶつけると、口をとがらせて言った。
「才能です」
あまりにシンプルな返答に言葉に詰まっていると、渡辺は話を続けた。