2020年からの新型コロナ拡大の影響を受けて、東京都心のオフィスビルの空室率が急上昇している。平均賃料も低下しており、このままでは需給バランスが崩れて、オフィス市場は大混乱するのではないかという観測がある。しかし、実はそうではなく、まだまだ東京のオフィス市場は安泰という見方が強いのだ。いったいなぜか。住宅評論家の山下和之氏がレポートする。
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オフィス仲介大手の三鬼商事では、全国の主要エリアのオフィスの空室率、賃料動向を毎月調査して公表している。その直近1年間の東京ビジネス地区(都心5区=千代田区、中央区、港区、新宿区、渋谷区)の結果が別掲の図1だ。
東京のオフィス市場は負のスパイラルに?
その調査によれば、3.3平方メートル当たりの賃料は右肩下がりで下落、空室率は右肩上がりで高まり、オフィス市場は急速に悪化しているようにみえる。平均賃料は1年間で8.2%下落し、空室率も1年間で3.00ポイントの上昇だ。
一般に、オフィス市場では、空室率5%が市況の温度感を図る目安とされている。空室率が5%を超えると「景気が悪い」→「借り手が少なくなる」→「賃料が低下する」という負のスパイラルを描くようになる。反対に5%より低くなれば、「景気が良い」→「借り手が増える」→「賃料が上がる」という好循環に転化するわけだ。
リーマンショック後には空室率10%も
その点からすれば、東京のオフィスはボーダーラインを超えて、冬の時代に一直線のようにみえるが、実はそうとは限らない。その理由はいくつか挙げられる。
第一には、東京ビジネス地区の空室率が5%を超えることは決して珍しくないという点だ。三鬼商事の『オフィスマーケットデータ』の結果を遡ってみると、2008年のリーマンショック後には、それまで2%台の低い水準だったのが、2008年末には4%台に乗せ、2009年末には8%台、2010年半ばには10%まで上がっている。
しかし、リーマンショックの影響が薄れてくると、2012年あたりから空室率の低下が始まり、2013年末には7%台に、2014年末には5%台まで低下し、その後は年1%程度ずつ下がって、2018年末には1%台まで低下したのだ。
その意味では、コロナ禍という100年に一度のパンデミックで世界経済が大きな痛手を受けたのだから、多少空室率が上がるのは避けられないわけだが、リーマンショック後の深刻な事態に比べると、今回はそう悲観するものではないという見方が強い。それが第二の理由につながる。