いよいよ竜王獲得に王手と、藤井聡太三冠の快進撃が止まらない。「現役最強」とも称される渡辺明名人は、自身にとって脅威となる若き棋士をどう見ているのか。また、「4強時代」と言われる将棋界の勢力図はこれからどう変わるのか。11月12、13日の竜王戦第4局を前に、将棋観戦記者の大川慎太郎氏が渡辺名人に胸の内を聞いた。(全4回の第4回)
【文中一部敬称略】
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藤井から勝ち星を最も多く挙げているのは豊島だ。11月3日現在、豊島の9勝11敗。初対戦から豊島が6連勝し、「藤井の最後の壁」といった報道も見られた。だが藤井は今年の王位戦開幕後から巻き返し、勝ち越しに転じたのだ。藤井は「序盤で苦労することが多い」と豊島の序盤戦術の巧みさをたたえていたが、渡辺は2人の対戦をどう見ているのか。当然、参考にしているはずである。
「豊島さんが勝つ時は、先行逃げ切りが多いように見えます。やっぱり豊島さんが形勢がよくなったり勝ったりする時に、どういう流れでそうなったのか注意深く見ています。でも明確な理由はわかりません。それがわかれば苦労しませんよ」(渡辺明名人、以下同)
では「4強」のもう一人の永瀬はどうか。藤井との対戦成績は、永瀬の1勝7敗である。この2人はまだタイトル戦で当たっていないが、普段から練習将棋で盤を挟んでいる間柄だ。コロナ禍になってからはオンラインで指しているという。
「その2人はまだ公式戦の対局数が多くないので、またちょっと毛色が違うんです。練習将棋をたくさん指しているからだと思うんですけど、永瀬さんは自分が負ける時のパターンをよくわかっている。だから振り飛車(※序盤において、大駒の飛車を左翼へ展開する戦法)をやっていたでしょう」
竜王戦挑戦者決定戦三番勝負は、藤井と永瀬の争いだった。その第1局で永瀬が三間飛車を選択したのに驚いた棋士は少なくなかった。振り飛車はAIの評価値が低いため、トップ棋士で用いる者はほとんどいない。藤井の意表を突くことに勝機を見出したのかと見る向きも多かった。
「永瀬さんは他の棋士には振り飛車はほとんどやりません。だから藤井さんと自分の力関係をよくわかっている感じが伝わってきます。だって、他の人にやらない作戦を藤井さんにだけ用いるのは変でしょう。普通にやったら厳しいと思っているんだろうなという感じが伝わってきますよね」
渡辺の話を聞いていてわかるのは、番勝負で藤井に勝つことの難しさだ。
「タイトル戦は五番勝負なら3勝、七番勝負なら4勝しなくては勝てません。藤井さんとめったに当たらず、トーナメント戦なら一発入れればいいという発想になるでしょう。だけどトップ棋士は番勝負で、先手後手と順番にやっていく中で、どうやったら一つ勝ち越せるかを考えなくてはいけないんです」