そろそろ寒くなってきて、温かい飲み物が恋しい季節。ホットなコーヒーやお茶でも飲みながら、読書をするのもいいのでは? この季節におすすめの新刊4冊を紹介する。
『ゴルゴCAMP Gが教える超A級キャンプ・サバイバル術』
原作 さいとう・たかを/作・画 深山雪男/小学館/1320円
キャンプ場のカップルの前に登場するゴルゴ13。パンツ一丁だったり木に逆さ吊りの蓑虫状態だったりする唐突さに吹き出すが、火の熾し方、防寒対策、ペットボトルの活用術など中身は超有用。後半、100均の店員になって登場するゴルゴが薦めるキャンプグッズベスト3にもご注目を。ポリ袋でご飯を炊く方法などは単身者に便利。都市災害時のサバイバル術としても活用したい。
『家族不適応殺 新幹線無差別殺傷犯、小島一朗の実像』
インベカヲリ★/KADOKAWA/1870円
2018年新幹線の中で2人の女性をナタで切りつけ、止めに入った男性の命を奪った小島被告。彼は無期懲役の判決に結願の万歳三唱する。罪を犯して刑務所に入るのではなく、刑務所に入るために罪を犯すという倒立。刑務所には国家の加護があるとする論理に、オーウェルが『1984年』で描いた悪夢を思い出す。自分を絶対権力に委ねるという安息は、現代の病のように見える。
『ばにらさま』
山本文緒/文藝春秋/1540円
デブで汗っかきの僕の恋人は白い。二の腕の内側までバニラアイスクリームのように白い。こんな甘いトーンの表題作はやがてイソップ物語のような酸味に侵食され始める。彼女の匿名日記に僕が気づくのだ。倹約妻の「わたしは大丈夫」や、2人の女性の共依存と見せて強烈なツイストのある「菓子苑」など、女性のもう一つの顔を描く計6編。山本さんは短編の名手でもあった。
『夜中の電話 父・井上ひさし最後の言葉』
井上麻矢/集英社文庫/594円
3.11や近年の日本の姿が視えていたかのような傑作『吉里吉里人』を遺した井上ひさし(2010年没)。偉大な演劇人でもあり、その「こまつ座」を継いだのが「マー君」こと三女の麻矢さん。今も父の泉から湧き出る言葉をかみしめる。「難しいことを易しく、易しいことを深く、深いことを愉快に〜」というあの有名な井上語録に続きがあったとは! それを知るだけでもお宝本。
文/温水ゆかり
※女性セブン2021年11月25日号