キャスティングの妙を実感させる作品に出逢った時の悦びはまた格別だ。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が考察した。
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11月9日に永眠した作家・僧侶の瀬戸内寂聴さん。享年99、人生を謳歌したアッパレな大往生。過去のラジオ番組では爆笑問題が寂聴さんにこんな質問を投げかけました。
「いろいろと悩み相談を受けても、これはちょっとさすがにどう答えたらいいかわからないってときもあるでしょ?」
さて、寂聴さんはこの質問にどう答えたか?
「答を求めてるんじゃないの彼らは。(話を)聞いてほしいの」
「もし身の上相談を受けたら、一生懸命聞いてあげればいいのです。答はいりません。ただ聞いてあげればいいのです」という名言も残しました。ポイントは「回答する」ことではなくて、「真剣に聞くこと」にありそうです。
「そうでないと相談がいつまでも終わらないから。きちんと聞けば、30分で帰っちゃうんだから」と茶目っ気のある口調で笑わせる寂聴さんの姿もTVの追悼シーンで流れました。
瀬戸内寂聴という人の自由奔放な生き方には激しいバッシングもあった。一方で、特に晩年の法話には熱狂的なファンがおしかけ、人生相談乗って欲しいという人がひきもきらなかった。その理由はひとえに、寂聴さんの「受け止める力」だったのではないでしょうか。
そう、みんな自分の悩みを聞いてほしい。わりきれない思いを受け止めてほしい。これほど誰かに「聞いてほしい」と多くの人が思っている時代は他に無いのでは?という時代にピタリと適合するドラマがあります。
『スナック キズツキ』(テレビ東京系金曜夜00:12)は都会の路地裏でひっそり営むスナックが舞台。ママのトウコを原田知世さんが演じています。そこはちょっと風変わりなスナックで、アルコールは出さない。ふらりと入ってくるのは傷ついた人々。
ある夜はコールセンターで働く中田優美(成海璃子)が、顧客のクレーム対応でストレスを抱え夜道に光る看板に誘われ入ってくる。
ある時はコンビ二でバイトする富田希美(徳永えり)が、自分は誰にも見つけてもらえない、誰かの役に立つわけでもない人生について、一抹の寂しさを抱えて入ってくる。
ある夜は主婦・中島香保(西田尚美)。タワマンで豊かな暮らしをし一人息子はエリート国立大学に合格したのに、どこかわりきれない。満たされない……。
原田知世の演じるトウコママの口調はちょっと変わっていて、初対面であろうが誰に対しても友達言葉。「今日もおつかれさん」「ごくろうさん」「そうだね」「うん」とフラット。
前から知っている人みたいに何げなく語りかける。相手はふっと肩の力を抜いて口にできなかったことを囁くように口にする。
トウコは美味しい飲み物を出す。あとは客にアドバイスらしいアドバイスもしないし具体的な回答も出さない。ただ静かに客の思いを「受け止める」。どこまでも自分流に。しかし、いい加減ではなく。傷付いた人たちは、トウコと話したり、詩を朗読したり、歌ったり、しりとりをしたり、思い出のディスコダンスをしたり。
トウコと「一緒にやる」というのがポイントです。どんな意味があるとか効能があるのかは説かず、ただ一緒に「やる」。それが受け止める作業なのでしょう。