冬が近づくとともに食卓に上がる機会が増える鍋料理。その中でも「国民食」とも言えるほど人気なのが「おでん」だ。
だが、年齢を重ねるほど、おでんの具が喉に詰まる窒息リスクに注意しなければならない。実際、2004年には介護施設でおでんを食べた75歳男性が、「はんぺん」や「こんにゃく」を喉に詰まらせ、窒息死する事故も起きている。
窒息とともに気をつけなければならないのが、おでんの具の「誤嚥」である。心越クリニックの岩間洋亮院長が解説する。
「一括りにされることもありますが、窒息と誤嚥は違います。誤嚥とは、口から入れた食べ物や汁を、食道ではなく、肺に通じる気管に誤って入れてしまうこと。
気管をストローにたとえると、ストローが全部塞がるのが窒息、ストローの中に食材などが落ちてしまうのが誤嚥です。誤嚥すると、気管から肺に入った食べ物や汁が腐って雑菌が繁殖し、肺炎を起こしてしまう。これが誤嚥性肺炎です」
厚生労働省「人口動態統計月報年計」(令和2年)によると、誤嚥性肺炎による死亡者数は全国で約4万3000人、死因の第6位(3.1%)となっている。
おでんには誤嚥が懸念される具材も多く含まれているという。定番の具材とされているはんぺんやちくわ、大根、がんもどき、ゆで卵、しらたきの名前が挙がる。
具材によって誤嚥を招く理由は様々だ。はんぺんやちくわ、さつま揚げなどの練り物、大根やがんもどき、ロールキャベツなどは、固形物と水分が一体になっている。そのため、しみ込んだおでんの汁が気管に入ってしまうほか、噛んで小さくなった固形物が気管に入りこんでしまうことで誤嚥を引き起こすリスクがある。
みえ呼吸嚥下リハビリクリニックの井上登太院長がいう。
「水分を多く含む具材は、噛んだ瞬間に中の水分がジュワっと溢れ出てきます。口の中で小さく切ったりすり潰したりしている間に、先に水分だけが喉に入ってしまう。そうした時にむせてしまうと、その瞬間に固形分を一緒に吸い込んでしまう可能性がある。
本来、口の中で噛み終わるまでの間は、舌の奥などで水分が止まって喉に行かないようにしているのですが、歳をとるとそれが上手にできなくなるのです」
前出・岩間氏はこう話す。
「健康な人なら、食べ物が気管に流れていってしまっても、『咳嗽反射』によって、むせて吐き出すことができます。しかし、嚥下機能が落ちていると反射が遅れ、そのまま気管に流れ込んで肺に落ちてしまう」