岸田政権は11月19日、過去最大規模となる55.7兆円の財政支出の経済対策を閣議決定した。新型コロナによる経済停滞を受け、困窮する人たちへの給付策が柱となると打ち出しているが、様々なところで「余裕のある人にも給付がなされるバラマキでは」という疑問の声があがっている。
今回の経済対策でまず注目を集めたのは、「18歳以下への1人あたり10万円相当の給付」だった。公明党が先の衆院選で「未来応援給付」として掲げた公約がベースとなっているが、「裕福な子育て世帯にも給付があるのはおかしい」という議論が巻き起こり、自公は「年収960万円の所得制限」を設けることで合意した。全国紙政治部記者が言う。
「児童手当の支給の所得制限の仕組みをベースとすれば迅速な給付ができるということで、子供2人の場合であれば、主たる生計維持者が年収960万円未満なら給付が受けられるという仕組みに落ち着いた。ただ、夫が年収950万円、妻も年収950万円といった、いわゆる“パワーカップル”に分類されるような人たちでも給付を受けられることになり、公平性を欠くのではないかと疑問の声があがっています」
そうした批判があったことも意識してか、政府は子育て世帯だけではなく、コロナ禍で苦しむ困窮世帯に対する支援策も打ち出した。今回の経済対策には、所得が低い「住民税非課税世帯」に対し、1世帯あたり「現金10万円」を配ることが盛り込まれた。バランスを取ったように見えるが、それについても疑問視する向きはある。
住民税非課税世帯は、基本的に生活保護受給者かどうか、前年の所得がどのくらいあるかなどによって決まる。仮に十分な貯蓄があったとしても、前年の所得が少なければ住民税非課税となるわけだ。「収入は少ないけど、貯蓄は多い」という人など、なかなかいないだろうと思うかもしれないが、そんなことはない。ベテラン社労士が言う。
「一般的な年金収入のある世帯が、住民税非課税となることは珍しくありません。東京23区をはじめとする大都市であれば、夫の年金が年211万円(月額約17.5万円)より少なく、妻の国民年金が月額約6.5万円程度であれば、住民税非課税となります。厚生労働省は、年金受給者のモデル世帯を『夫婦で約22万円』と設定していますから、それをベースとして考えれば“一般的な年金受給世帯”は住民税非課税ということになる。過去の厚労省の資料などを見ると、住民税非課税の対象者は約3100万人などと推計されていますが、そこには多くの年金受給者が含まれていると考えられます」