ヒットドラマの”法則”は、コアなファンにとって心地よいものである。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が分析した。
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ドラマ『婚姻届に判を捺しただけですが』(通称『ハンオシ』)の放送時間はTBS火曜日の午後10時。そう、『逃げるは恥だが役に立つ』『恋はつづくよどこまでも』『私の家政夫ナギサさん』等のヒットラブコメを連発してきた時間枠です。
率直に言って今回の『ハンオシ』は、『逃げ恥』ほどの人気を集めているとはいえないけれど地味に手堅い。視聴率を見ても第1話9.4%からスタートし第4話で10.0%と二桁台にのせ、今週放送された第6話は9.2%(関東地区 世帯視聴率)と、後半に入っても底堅く安定飛行を続けています。
この時間枠にTBSがラブコメをブレずに貫いてきた一定の成果であり、視聴者の潜在的ニーズをきっちりと掴んでいる証しでしょう。
物語は--イケメンの広告マン・百瀬柊(坂口健太郎)に“偽装結婚”を頼まれた大加戸明葉(清野菜名)。結婚に全く興味がなかった明葉も、突如必要となった資金のため「返済したら離婚する」という条件付きで借金+偽装結婚に応じることに。
そもそも明葉はデザイナーで“おひとり様最高”のバリキャリ。百瀬も「不毛な恋の隠れ蓑として既婚者になりたい」という不純な動機を持つ。
いわば、両者仕方なくスタートした偽装結婚ですが、二人の距離は微妙に近づき胸キュンシーンも挿入され……まさしく逃げ恥メソッドを踏襲したTBSのラブコメ路線、したたかです。
今作は特に、キャスティングに注目でしょう。何といっても百瀬役の坂口健太郎さんは、直前までNHK朝ドラ『おかえりモネ』で大人気の「菅波先生」を演じていて朝ドラが終わったとたんにTBSへと横ずれ。百瀬の人柄も菅波先生に通じるところがあり、やや不器用で女性とつきあった経験も多くはない。となるともはや菅波先生と別人と言われても視聴者は自然に朝ドラに重ねてしまい、あるいは混同する形で坂口さんを見つめてしまう。
考えてみればアッパレな戦略です。NHKで盛り上がったキャラの成果をそっくりスライドさせて活かすとは。こういう方法もあったのか、と膝を打つ。