温暖化が進み、ペットボトルやビニール袋などのプラスチックゴミの量も増加の一途を辿るいま、このままでは豊かな海産物が、私たちの食卓から姿を消す日が来てしまうかもしれない。それを阻止するべく、立ち上がった人たちがいる。
「ゴミは、お持ち帰りくださいね」
岩手県宮古市重茂地区の美しい海沿いに集う観光客に、優しく話しかけて歩く女性がいる。岩手県漁協女性部連絡協議会会長で、重茂漁業協同組合女性部部長の盛合敏子さん(68才)。漁業従事者が人口の9割を超える重茂地区で生まれ育ち、漁師の父と共に中学生の頃から海に出ていた。
「漁師というと“男の世界”のイメージが強いかもしれませんが、重茂では家族総出の漁業が当たり前。女の子だから家にいるということはありません。私も中学生の頃から父親に『重しになるだけでいいから』と船に乗せられて海に出て、少しずつ漁のやり方を教えられて慣れていきました。昔の船には櫂がついていたので女性が櫂で船を手繰り、男性が鈎やたものついた竿をもってあわびやうに、わかめなどを獲っていたんです」(盛合さん)
夫婦や家族で船に乗り込み、前に進むときは「ゴーヘイ、ゴーヘイ」、後ろに戻るときは「ゴスタン、ゴスタン」との合図に合わせて、女性が力を込めて船を漕ぐのが重茂の日常風景だった。そんな環境で育っただけに、盛合さんは幼い頃から「海を守る」意識が強かった。
「初めて環境問題を意識したのは、1970年代半ば頃に『ヘドロ』という言葉が出始めたときだったと記憶しています。当時、重茂の海はきれいだったけれど、近隣の町村からは『最近、海が汚れてきたね』という声がぽつぽつと出るようになった。それを聞いて、“重茂は漁村で、みんなが海を糧に生活しているのに、その海がダメになったら重茂もダメになる”と強い危機感を覚えました」(盛合さん)
事態を重く見た女性たちは一致団結し、環境保護に乗り出した。彼女たちが海岸清掃、漁港清掃などの活動とともに力を入れたのは、海を汚さない洗剤の普及活動だ。
「1973年に漁協と石けんメーカーが協力して作った天然石けん『わかしお』を市内の家庭で普及させる運動を続けています。天然油脂が原料であり、分解されやすく環境への影響が少ない。生活排水で海が汚れ、海産物に影響を生じさせないために地域一丸となって配慮した生活を心がけています」(盛合さん)