「樹の声を聞く」をモットーに、伝統にとらわれない大胆で自由な作風で盆栽界に新風を吹き込み、欧州にも熱烈なファンが多い盆栽職人・川辺武夫さん(75才)。従来の盆栽の常識では、三角形に樹姿を整え、正面に突き出たり、幹と交差する枝は、切るべき忌み枝とされてきた。
「樹一本一本にも個性があり、それぞれが生まれた厳しい自然の下で人間の想像を超えた命のドラマや歴史を刻んでいる。極端に言えば自然界は忌み枝の宝庫。そのことに敬意を表し、ありのままに受け入れる度量が私たちには必要。最優先すべきは人の美意識より、あくまでも樹の健康状態や命なのです」(川辺さん・以下同)
元エンジニアから盆栽の世界へ飛び込んだ川辺さん。「盆栽に完成はない」と言うように、5年、10年以上の時間をかけて名品を世に送り出す。樹と真摯に向き合い続け、その情熱と技術が海外でも評価され、講師として各国に60回以上も招待されるなど欧州では絶大な人気を誇る。
「モナコ、スイス、フランス、ベルギーなどいろいろな国で盆栽の魅力を伝えているつもり。私がいなくなった後も私の技法や盆栽への想いが海外の人たちに継承されていくのはうれしいことだよ」
世界を虜にする盆栽職人の存在は、海を渡って人々を魅了しているのだ。
撮影/田中智久
※女性セブン2021年12月9日号