ドラマや映画、CMなどテレビで見ない日はない、水谷豊(69才)。俳優のトップランナーとして、常に主演を張り続けている。俳優歴50年を超える彼の素顔をよく知る人たちの証言から、役者としての「プロ根性」に迫った。【全3回の3回目】
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役者の仕事はアルバイト
ざっくばらんな水谷だが、共演者らとの談笑の中で、驚くようなことを口にすることがあったと『探偵左文字進』シリーズ(1999〜2013年/TBS系)で共演したさとう珠緒(48才)は語る。
「私がもっともびっくりしたのは、撮影の合間にふと口にされた『役者として本気でやっていこうと思ったのは、つい最近のことなんだよ』という言葉です。ちょうど2000年代に入ったばかりの頃で、水谷さんは誰もが知る大スター。それなのにそんなことをおっしゃるなんて……と、いまでも当時の衝撃を覚えています」(さとう)
映像ディレクターの池澤辰也さんは、その言葉の意味を、こう推測する。
「豊さんは、『俳優の仕事はアルバイトだから』とも口癖のようにおっしゃるのですが、それは、若い頃に知り合いのプロデューサーに声をかけられてドラマに出るようになり、そこから今日まで、『この作品に出ないか』と声をかけてもらって出演する、ということを繰り返してきたから出る言葉だと思います。冗談を交えながらも、初心を忘れないというか……。
とはいえ、豊さんはプロ根性の塊。現場に入ってくるときは、どんなに脚本が遅れても、せりふは完璧に頭に入っていますし、食事会でもお酒は一切、口にされません。60才を過ぎても主演し続けるために、健康管理も含めて、常に努力し続けているのは、すごいことです」(池澤さん・以下同)
食事会など、気心知れたスタッフとの時間を大切にしている水谷だが、なかなか本心を話さない面もあるという。
「豊さんが本心を話せるのは、多分、ごく限られた人しかいないんじゃないか、と拝察しています。ショーケンさんや優作さんとのことも、興味があるから聞き出そうとするんですが、『よくしてもらったね』とおっしゃるだけで、多くを語らない。
いつも前を向いているかただから、恐らく、豊さんの中ではいい思い出になっているのでしょうね。ただ、娘の趣里さん(31才)から『お父さんは方向音痴なんだよ〜』など、ふだんの豊さんの話を聞くたびに、いいお父さんなんだろうなと感じます」
数々のヒットドラマで主演を果たしてきた水谷だが、現在、ドラマは『相棒』のみ。映画製作に尽力し、2017年には23才から構想を温めてきたという、映画『TAP THE LAST SHOW』で、初めてメガホンをとり、その2年後には映画『轢き逃げ 最高の最悪な日』(2019年)で脚本も手がけている。
「ドラマは『相棒』一本に絞って、今後は映画に活躍の場を移されていくようです。『相棒』は豊さんが“やめる”と言わない限りはずっと続いていくでしょう」
いつも自然体で役に向き合うという水谷。その姿勢こそが、杉下右京という国民的ヒーローを魅力的に輝かせているのだ。
取材・文/廉屋友美乃
※女性セブン2021年12月9日号