11月26日、政府は臨時閣議を開き、岸田内閣が打ち出した経済政策を裏付ける令和3年度の補正予算案の概要を閣議決定した。一般会計からの歳出は約35.9兆円で、補正予算としては過去最大となる。「18歳以下」「住民税非課税世帯」「困窮学生」への給付も盛り込まれたが、昨年の全国民への「10万円一律給付」と違って対象がしぼられていることから、生活に苦しむ一部の人たちには支援が届かないのではないかという懸念が広がっている。
巨額の事務費がかかることも批判の対象となっているが、岸田文雄・首相は今回の経済対策について「国民に安心と希望を届けられる十分な内容」とする。ただ、給付の“線引き”については様々な議論がある。全国紙政治部記者が言う。
「補正予算案では、『18歳以下の子供への10万円相当の給付』のために新型コロナ対策の予備費約7000億円とは別に約1.2兆円の予算が組まれました。ただし、児童手当の基準に基づいて主たる生計者が年収960万円以上(扶養家族が配偶者と子供の2人の場合)だと給付対象から外れることになりました。都心で子供を2人も3人も育てていて出費がかさむ家庭でも、所得制限で給付対象にならないケースがある一方、共働きで夫婦それぞれが年収900万円といった家庭が給付対象になることなどについて“不公平だ”という声も聞こえてきます」
そして、補正予算案でその18歳以下への給付を上回る1.4兆円の予算が組まれたのが「住民税非課税世帯への10万円給付」だ。住民税非課税となるのは生活保護の場合や前年の所得が自治体ごとに定められる基準を下回った場合などだ。経済対策の内容が11月19日に閣議決定された際には、こうした給付について〈新型コロナウイルス感染症の影響が長期化する中、国民の生活は傷んでいる。雇用を守り、様々な困難に直面した方々が、速やかに生活・暮らしの支援を受けられることが重要である〉と位置づけられている。
しかし、この給付が〈様々な困難に直面した方々〉に届くものなのか疑問視する向きもある。「住民税非課税世帯への給付金の場合、高齢層への支援に偏ってしまう可能性がある」とするのは、都内で開業する社会保険労務士だ。
その懸念を裏付けるデータとして、厚生労働省の国民生活基礎調査(令和元年)がある。同調査では、調査に回答した世帯(全国2万2288世帯)の世帯主の年代と住民税課税額を整理したデータを公表している。それによれば、住民税課税世帯は全体の約77%。その数字に基づけば、今回の10万円給付の対象となる「住民税非課税世帯」は残りの約23%だと考えられる。厚生労働省世帯統計室国民生活基礎統計第二係によれば、「アンケート調査のため『無回答』などが含まれることなどから、残りがそのまま住民税非課税世帯とは言えない」とのことなので、おおよその数字となるが、前出の社労士はこう続ける。
「おおよその数字にはなりますが、注目すべきは、世帯主の世代ごとに住民税非課税世帯の割合が大きく違うことです。30~39歳が世帯主だと約9.9%、40~49歳だと約11.4%と若い世代では比較的少ないのですが、世帯主が65歳以上だと約34.9%、75歳以上だと約42.9%が住民税非課税世帯になり、年齢が高いほど住民税を課税されない世帯の割合が大きくなるのです。この調査に回答した人たちのデータから読み取れば、住民税非課税世帯のうち65歳以上が世帯主であるケースが約72%を占めるということになり、高齢層への偏りが見て取れます。
住民税が非課税となる基準は自治体によっても変わってきますが、たとえば東京23区のような大都市の場合、働いて給与を得ている人だと単身者なら年収100万円、2人世帯であれば年収156万円を超えると、住民税が課税されてしまう。それに対して、公的年金等控除が使える年金受給者の場合、たとえば65歳以上で配偶者を扶養している場合、年金収入211万円までは住民税が非課税になる。こうした違いがあるから、住民税非課税世帯は高齢者が多いということになるのでしょう」