2015年6月、神奈川県を走行中の東海道新幹線のぞみ号の車内で、71才の男がガソリンをかぶって焼身自殺した。巻き添えになった52才女性が亡くなり、28人が重軽傷を負った。2018年6月、同じく神奈川県を走行中ののぞみ号で22才の男が女性客をナタで切りつけ、止めに入った38才男性を刺殺した。
そして、今年8月には東京都世田谷区を走行中の小田急線車内で36才の男が乗客10人を包丁で切りつけ、サラダ油を床にまいて放火を企む事件が発生。さらに10月、東京都調布市・国領駅付近を走行中の京王線特急内で、24才の男が72才の乗客の胸をナイフで刺し、まき散らしたライター用オイルに火をつけた。多くの乗客が悲鳴を上げて逃げ回り、18人が重軽傷を負った。
「日本の電車の安全神話は、完全に崩壊しました」
元神奈川県警刑事で犯罪ジャーナリストの小川泰平さんはそう指摘する。
「一連の事件の犯人はみな自暴自棄になり、『おれはこれだけのことをやるんだ』という承認欲求が強かった。しかも危険なことに、こうした事件が起こるたび『自分も大きなことをやってのけたい』と模倣犯が続きます。実際に京王線の事件の犯人は、今年8月の小田急線の事件を参考にしたと供述しています。
2008年に起こった秋葉原連続通り魔事件など、数年前までは無差別殺傷事件は屋外の人通りが多い場所で発生するものでしたが、いまは電車内が模倣犯たちの“トレンド”になったといえるでしょう」
総合危機管理アドバイザーのおりえさんも、模倣犯はまだ現れる可能性があると呼びかける。
「国内での犯罪件数のピークは2002年の285万件で、以降は年々減少し、昨年は約61万件でした。犯罪の件数は大幅に減っているんです。しかし、小田急線や京王線の事件が連日大々的に報道され、それに刺激されて真似したいと考える者が後を絶たない。そのため、電車内での事件が増加してしまうのです」
京王線の事件直後の11月、東京メトロ東西線で50代の男が乗客を工具で脅して逮捕された。また熊本県でも、走行中の九州新幹線の車内に液体をまき、ライターで火をつけた60代の男が取り押さえられた。この男は「京王線の事件を真似た」と供述した。
にわかに緊張感が高まるのは、この年末年始だ。防犯対策専門家の京師美佳さんが指摘する。
「例年、年末年始は犯罪が増えます。さらに今年は、コロナ禍の不景気が犯行意欲を後押しする危険も高い。犯人の中には、正月にはおせちが出て、『3食寝床あり』の留置所で年末年始を迎えたいからと、逮捕覚悟で犯罪に走る者もいます。いまの時期、電車やバスなどの密室には、痴漢やスリ、通り魔など大小さまざまな犯罪者が出やすい。年間で最も注意が必要です」
※女性セブン2021年12月16日号