日に日に冷え込みが厳しくなり、本格的な冬が近づいている。温かい部屋で読書を楽しむのはいかがだろうか。この冬に読みたいおすすめの新刊4冊を紹介する。
『月夜の森の梟』
小池真理子/朝日新聞出版/1320円
直木賞カップルだった藤田宜永&小池真理子夫妻。藤田氏没後から書き始められたこの52篇は新聞連載時から大反響を呼んだ。抑えた筆致から滴りおちる悲嘆、孤独、喪失の感情。生前夫は予言した。“俺が死んだ後おまえはおいおい泣きながら饅頭をぱくぱく食うようなやつだ”。どら焼きを食べながらそれを思いだし、笑いながら嗚咽。自分を俯瞰する視点にこちらも泣き笑いする。
『逃げる女』
青木俊/小学館/1760円
ライター名倉の殺害容疑で麻美逮捕に動く北海道警の生方と直子。が、麻美はいつも寸前で逃げおおせる。やがて舞台は本州へ。警視庁と各県警の合同捜査という大捕物に発展する。前半のスピード感からゴツイ着地まで、領土、外交、検察など日本的闇を抉ってきた著者らしい快作。従来の防衛予算GDP比1%枠が倍になるかもしれない中、日米地位協定について学ぶいい機会だ。
『明け方の若者たち』
カツセマサヒコ/幻冬舎文庫/605円
就職内定者の勝ち組飲みコンパで「僕」は彼女と知り合う。それが恋に落ちた日。実家からの独立、時々泊まりに来る彼女、同期や彼女と三人でつるむ日々。が、終わりは突然やってきて……。驚いたのは20世紀のモラトリアムが大学期間だったのに対し、過酷な就活のせいなのか、21世紀のそれは卒業から3〜4年(結婚や転職まで)であること。「人生のマジックアワー」だそうだ。
『一汁一菜でよいという提案』
土井善晴/新潮文庫/935円
男性の原風景には子供時代=母の手料理=愛情という図式が拭い難くあるように思う。食事というものの流れを「買物→下拵え→調理→料理→食べる→後片付け」とする図には打ちのめされる。その一方で、一汁一菜はムリにおかずを作らなくても、具沢山の味噌汁(肉やベーコンも可)とご飯(パンも可)でOKとの考え方に励まされる。このライフスタイル、働く女性を救うかも。
文/温水ゆかり
※女性セブン2021年12月16日号