厚生労働省によると、75歳以上の4割以上が「5種類以上」の薬を飲んでおり(2020年)、加齢により薬の代謝などの機能が衰え、体内に留まりやすくなる高齢者ほど多くの薬を飲んでいる現実がある。こうした「多剤併用」は身体への負担が大きいため、「薬を減らしたい」という人は多いだろう。だが、患者自身の判断で安易にやめる薬を決めるのは、現在の症状の悪化を招きかねず危険だ。
そこで普段、患者に薬を処方する立場にある医師に、「飲みたくない薬」「飲まない薬」を聞いた。医療ガバナンス研究所理事長の上昌広医師は、自分が糖尿病になっても「インスリンは嫌」だという。
「インスリン製剤の注射は食事時や一日の決まった時間に打たねばならず、生活が制約されて大変です。もし私が糖尿病になっても、インスリン製剤を使わずに飲み薬だけで済むよう、生活習慣を改善するつもりです」
さらに、国立がんセンター中央病院の血液内科医を務めた経験がありながら、「ある種の抗がん剤は使いたくない」と語る。
「ドキソルビシン塩酸塩、ビンクリスチン硫酸塩、シタラビンといった古くから標準治療として使わる抗がん剤は使いたくありません。
がんセンターに勤務中、吐き気や脱毛だけでなく、肝臓や脳の障害など命にかかわる副作用に苦しむ患者さん、力尽きて亡くなる患者さんを見てきました。
効果があるのは間違いないですが、抗がん剤は薬の中で最も副作用の強いものの一つです。もし私ががんになっても、副作用の強い抗がん剤は使いたくありません」
※週刊ポスト2021年12月17日号