2040年代、月面で1000人が生活し、年間1万人が「月旅行」をしている──。そんな「ムーンバレー構想」を掲げる宇宙ベンチャーのispaceにとって、人類が月を日常的に利用する世界は「すぐそこにある未来」だ。
4年前、同社は国際的な月面無人探査レース「Google Lunar XPRIZE」でファイナリスト5チームに選出。当時のチーム名「HAKUTO」を受け継ぎ、「HAKUTO-R」という月面探査プログラムを進めている。2022年には月着陸船(ランダー)を月面に送り、2023年には自社開発の月面探査車(ローバー)の実証実験を行なう予定だ(スケジュールは2021年11月時点の想定)。
さらに、その後は月面にある環境の調査、特に水資源の調査・掘削を目指し、人類の「月面生活」の最初の一歩を担う──。彼らの当面の目標である。
「人が月に暮らすに当たって、何よりも重要なのが水です」と、同社のCOO・中村貴裕氏は言う。
「水は生活用水だけではなく、水素と酸素に分けて液化すればロケットの燃料になります。2010年以降の調査で分かってきたのは、月の極域には1mほど掘れば大量の氷があり、その量は数十億tに上るかもしれないということ。月面に建設したプラントで水素燃料を作り出せれば、着陸船や月面探査車、さらには火星探査に向かうロケットの中継基地になり得るのです」
そんななか、アメリカも月の開発に本腰を入れ、月軌道に宇宙ステーションを作るゲートウェイ構想を開始している。
重力が地球の6分の1である月では、ロケットの打ち上げコストが地球よりもずっと安価になる。38万km離れた地球軌道にいる衛星に補給燃料を送る場合でも、地球から輸送するのに比べて、はるかに安いコストで済むのだという。
また、月にはソーラーパネルの原料となる鉱物もある。
「よって、いずれ月は宇宙における水素ステーションとして位置づけられていくでしょう。そのように月に経済圏が生まれることは、人類にとって大きな意義があるはずです。地球の経済圏と月の経済圏がお互いにフィードバックし合うなかで、様々な技術やビジネスが培われていくからです。そして、その中心となるのが、僕らの調査しようとしている水資源であるわけです」